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2005年12月13日

科学者の倫理性 (4)

 11月29日の本欄で、ES細胞の先駆的な研究で注目されている韓国のファン・ウー・ソク教授が倫理的問題で失敗した後も、卵子提供希望者が絶えないという話を書いた。韓国の国民感情の高まりを示している。が今度は、韓国メディアを中心に、ファン教授の研究成果自体を疑問視する声が上がっている。13日の『朝日新聞』によると、ファン教授が所属するソウル大学は、同教授の研究結果を再検証するための調査委員会の設置を決めた。ということは、メディアの批判に全く根拠がないわけではなさそうだ。問題の発端は12月2日、韓国民放のドキュメンタリー制作陣が記者会見し、「体細胞提供者のDNAと、実験で作られたES細胞のDNAが一致しなかった」と言って、実験データの信憑性に疑問を唱えたことにあるらしい。ファン教授自身が、身の潔白を証明するために大学側に再検証を要請したという。

 12日付の『ヘラルド朝日』は、しかし少し違う内容の記事を掲載している。問題の研究論文を掲載したアメリカの科学誌『Science』(6月17日号)が、韓国の科学者から批判されている点をファン教授に説明を求め、同教授の研究データを専門家が再検証する必要があると言ったらしい。そこでソウル大学は緊急会議を開いて、同教授の研究データの再検証を決定した。これと並行して12月7日には、30人の教授陣が同大の学長に対して「DNA検証のかなりの部分が説明不可能である」という報告を提出したというのだ。また、問題の研究論文の電子版に添付されていた写真のいくつかが、同一のものであったとの指摘もある。
 
 さらに13日の『ヘラルド朝日』紙は、その“後追い”記事を掲載して、韓国のある大学がファン教授の問題の論文の信憑性を検証することを申し出た、と報じている。そして「専門家」の話として、この論争は、ES細胞のDNAと患者のそれとを比較すればすぐ決着するはずなのに、ソウル大学はそれを早くしないで、調査委員会などを作るのはなぜか、との疑問を挙げている。こんな書き方をすると、問題のES細胞のDNAと体細胞提供者(患者)のそれとの比較がされたのか、それともされていないのか分からなくなるだろうが、実際に、2つの新聞の記述は食い違っているのである。事態はまだ「混乱の中」なのだろう。

 真相はいずれ明らかになるだろうが、この混乱の大きな原因は、やはり研究の最初の時点で「ウソを言った」(正確な事実を隠していた)ことにあると思う。この“ウソ”の期間が1年以上あったから、「1年以上もウソを通していた研究者なのだから、ほかにもまだウソはあるだろう」との疑いがどうしても生まれてくる。日本で耐震強度偽装をした建築士の場合でも、1箇所でそれが発覚したならば、「ほかにももっとあるだろう」と考えるのは自然の成り行きである。かの建築士は、その疑い通りにゾロゾロと偽装の事実が暴露されたが、ファン教授の場合はどうなるだろうか。私見を言わせてもらえば、問題の先駆的研究自体がウソだったというような結果は「ない」と思う。科学者が研究データを捏造して発表すれば、それは社会的な自殺行為だ。韓国の科学界がそれほどヒドイとは思いたくない。
 
谷口 雅宣

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コメント

信徒の紅林孝治と申します。
年齢:36

>1年以上もウソを通していた--->それは社会的な自殺行為だ。それほどヒドイとは思いたくない。

この記事とは関係なく、私は思うのですが、『社会的な自殺行為』というのは、日本でも毎日、よくあることではないでしょうか?犯罪などは、そうではないでしょうか?

投稿: 紅林孝治 | 2005年12月16日 03:01

紅林さん、

 犯罪は社会的自殺行為と言えば、そう言えますね。でも、犯罪にまで至らなくても社会的に信用を失墜させるような行為もあります。今回の事件は、どちらになるのか今のところ分かりませんが……。

投稿: 谷口 | 2005年12月16日 17:11

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