認知された「石油ピーク説」
私が数年前から、生長の家の全国大会や講習会で紹介してきた「石油ピーク説」がようやく世界的に認知されだしたようだ。
まず、国際エネルギー機関(IEA)は、10月に出した『資源から備蓄へ:未来のエネルギー市場をにらんだ石油ガス関連技術』(Resources to Reserves: Oil & Gas Technologies for the Energy Markets of the Future)という報告書の中で、石油ピーク説が「一般読者の語彙の中に入った」と書き、OPEC諸国以外のほとんどの国々では、従来の方法による石油生産はピークを打ったことを認め、特にアメリカ国内ではピーク説の基礎である「ヒューバート曲線」がその後の石油生産量の減少を正確に予測したと書いている。IEAは、油田単位ではピーク説が適用できることを認めているのだが、同じ考え方が世界全体の石油生産に適用できるかどうかをまだ疑っているようだ。また、適用できるとしたら、①ピークはいつか?、②ピーク後の生産量の減少はどの程度か?、③技術の進歩はピークの到来にどう影響するか、について論争が決着していないとしている。私は、決着するはずがないと思う。
アメリカの時事週刊誌『TIME』は、10月31日号で「エネルギーの未来:石油癖をどうやめるか」という特集記事を組み、今回の石油高騰の背景についてアメリカのエネルギー産業投資銀行の頭取の「これは需要が実際に供給を上回った品不足だ」という分析を引用している。インドや中国の経済発展のスピードを誰も予測できなかった、というのである。そして注目すべきは、記事中で次のように述べていることである--「ある時点で--2010年という早期の可能性さえあるが--(石油の)生産量はピークを迎えるだろう。それは必ずしも急なピークではないが、その後はしだいに(生産量が)減少する」(p.30)。この文章は、同誌のマイケル・レモニック記者(Michael D. Lemonick)によるものだが、末尾には各国にいる同誌記者5人の名前も付してあるから、これによって同誌が「石油ピーク説」を採用したと見ることができるだろう。
もちろん同誌は、石油生産のピークは来ないという反対説もきちんと紹介している。その主旨は、石油埋蔵量は大きく、技術革新によってこれまで得られなかった場所や方法でも今後は得られるようになるというものだ。が、この反対説は肯定説より後に掲載されており、読者はピーク説の主唱者の1人であるプリンストン大学名誉教授のケネス・ドフェイス氏(Kenneth Deffeyes)の文章を先に読むことになる。そして、ドフェイス論文は「2007年説」(石油の生産ピークを2007年とする説)を紹介したり、石油会社「シェブロン」がピーク説を前提にしていると思われる広告をうったことや、エクソンモービル社が「1987年は、我々が使った石油より多くの量の石油を発見した最後の年だった」と言ったことに言及している。そして最後に、同氏は石油ピークは「2005年11月24日」だと2年前から予言していたと書いているのである。
日本のメディアは、石油ピーク説に対してまだ慎重だが、それでも『朝日新聞』は11月4日付の特集記事「原油高、いま世界市場は<上>」の中で、(私の記憶では)初めて「石油ピーク説」に触れ、「2010年ごろまでに原油生産量が頭打ちとなる」とする地質学者の説を紹介している。そして、地の記事では次のように述べる--「たしかに米国や北海油田の04年の生産量はピーク時より1~3割減った。世界最大のガワール油田(サウジアラビア)でさえ原油が自噴しなくなり、古い油田で用いられる、水圧で原油を押し出して生産量を維持する方法をとっているのが実情だ」。
エネルギー問題だけに注目すれば、石油の生産は「もっと深く」「もっと数多く」採掘すれば現在の生産レベルを維持することは可能かもしれない。また、石炭から液体燃料を取り出す技術も存在するから、これによって不足分を補うことは可能かもしれない。しかし、温暖化防止の観点をこれに加えれば、これ以上の化石燃料の採掘と利用は“自殺行為”に等しいことに、早く人類は気がついてほしい。アルコールでもタバコでもそうだが、中毒者は自分が中毒していることになかなか気がつかないものである。
谷口 雅宣
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