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2005年11月10日

日本の犯罪は減っている

 法務省はこのほど2005年版の「犯罪白書」の記者発表を行ったが、その内容についての新聞各社の報道はまちまちだ。

 本欄ですでに何回も書いているように、現在のマスメディアの“ニュース性”の判断基準は「悪現象」に偏っている。言い直すと、悪現象は積極的に報道されるが、善い現象や当たり前の現象はほとんど報道されないという偏向がある。そういう“偏り”があるならば、毎年この時期に政府から発表される「犯罪白書」は、その名の通り、「犯罪」という悪現象の1年間のまとめだから、白書中のどの情報を記事にしてもいいようなものだ。が、取り上げられる情報は、たいてい数字の増加(悪化)したものについてであり、減少(改善)したことについてはめったに触れられない。人生の光明面を見る“日時計主義”の重要さを知っている立場からすると、それほどまでに“日陰主義”を徹底させる必要はない、と声を大にして叫びたい。

 ではなぜ、今年の犯罪白書に関する報道がまちまちなのか? 私はこう考える。犯罪統計が明確に“悪化”を示している間は、新聞各社は一斉にその悪化の状況を書くから、記事の内容は似たりよったりのものになる。しかし、その逆の場合は、各社は膨大な犯罪統計の中からそれぞれの視点で“警告すべきこと”(つまり、悪い現象)を探し出して書くことになる。すると、書き手に選択の余地が広がって各社まちまちの報道がされることになる。

 では、各社の記事の見出しを掲げてみよう:
○17年版犯罪白書:少年非行 親に問題、処遇困難増加…少年院教官ら「子供の行動に無責任」(『産経』11月9日)
○改正少年法施行後、重大事件の6割が逆送、05年犯罪白書(『朝日』11月8日夕刊)
○事件の種類で差(『日経』同日夕刊)
○重大事件起こした少年、8割は集団犯罪に加わる(『読売』同日14時39分)
○刑法犯2年連続減 重大犯は増 裁判員制度の対象犯罪は3308人/犯罪白書(東京『読売』同日夕刊)

 上記のうち、見出しから記事の内容がよく分かるのは『産経』と『読売』のものである。『朝日』と『日経』の見出しは、それを読むだけでは何のことかよく分からない。私は、『読売』を除く各社が上記の5番目にあるような、分かりやすいだけでなく、正直な内容の記事を書かなかったことを残念に思う。そうなのだ、日本での犯罪発生件数は「2年連続で減少」しているのだ。このことを、もっと堂々と誇りをもって報道してほしかった。
 その『読売』の記事の最初の段落は、こう書いている:

 法務省は8日、2005年版「犯罪白書」を公表した。昨年の刑法犯は342万7606件(前年比6.0%減)で、戦後最多だった2002年から2年連続で減少する一方、刑法犯の検挙者は128万9416人(同1.5%増)と6年連続で戦後最多を更新した。検挙率は44.7%(同3.4ポイント増)だった。

 上の文章の前段は、統計の数字をストレートに書いていて明快だが、「一方」から始まる後段の文章は、数字をどう解釈すべきか考えさせられる。犯罪の発生件数が下がっているにもかかわらず検挙数が増加するには、いろいろな理由があるだろう。それには、警察官の増員や、犯罪捜査の向上、あるいはどのような種類の犯罪を集中的に取り締まるかなどという捜査方針が関係しているかもしれない。そういう様々な理由については、上の文章だけでは何も分からないのである。

 そこで私は、もっと詳しい統計的数値を知りたいと思い、法務省の担当部局に問い合わせてみたが、「数字を何のために使うのか?」と聞かれたのでまず驚いた。また、新聞記者に発表した白書そのものを入手できないかと依頼したら、記者発表から数日たっているのに「一般の人には渡せない」と言うのである。これにも驚いた。新聞記者には特別に知らせ、一般市民には知らせなくてもいいというのである。国民にはこういう公的数字を知る権利があるだろうと反論したら、「一般用の白書は2週間後にできるから、その時に知る権利を行使してください」という答えだった。何ともヒドイ対応に唖然とするばかりで、この白書には発表後、何かミスが見つかったのか、などと疑いたくなる。

 が、「絶対渡さない」というわけではないので、少し待つことにしようと思う。後日、何か重要なことが分かったら、本欄でお知らせしたいと思う。

谷口 雅宣

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