ヒメリンゴ
秋が深まってくると、東京でもさまざまな木の実が色づいてくるのは嬉しいものだ。わが家のミカンもポンカンも黄色がかってきたし、私の事務所のすぐ近くに立つハナミズキの実も赤くなった。ハナミズキは、私がジョギングのコースにしている明治公園沿いの道路の街路樹にもなっているから、葉が紅葉しかかった中に点々と赤い小さな実が散りばめられた様子は、なかなか華やかである。神宮外苑のイチョウの並木道では、銀杏を踏まないように目を皿のようにして走る。そして、最近発見したのは、公団住宅に隣接した細長い公園に、ヒメリンゴの大木が1本豊かな枝を拡げていることだ。
その木がヒメリンゴであることが分かったのは、赤くなりかかった小さな実をびっしりとつけていたからだ。実が色づくまでは、遠くからは他の木と区別がつかなかったので私の注意を引かなかった。が、深い緑の葉の中で実がほんのりと赤らんでくると、不思議に目につくものである。それも、ハナミズキのように葉の間に点々と実が散って見えるのではなく、それこそ文字通り“鈴生り”になっている。春のサクラが豪華に見えるのは、枝の1ヶ所から何本も花序が伸びているからだが、ヒメリンゴも花も同様に咲き、秋にはそれぞれの花序の先に直径2~2.5センチの実をつける。その名の通り、リンゴとよく似た形の実だが、リンゴの実の底部はへこんでいるのに対し、ヒメリンゴは小さく盛り上がっている。
一昨日(1日)の午後、ジョギングの帰途にそこへ行き、これだけ数多く実があるなら、少々の拝借は許されるだろうと思って、背を伸ばして枝の先を20センチほどいただいた。そこには実が9個ついていた。家に持ち帰って花瓶に挿しておき、休日の今日になってスケッチした。
ヒメリンゴは「イヌリンゴ」とも呼ばれ、英名は Chinese crab apple という。中国原産のバラ科の落葉小高木で、育つと高さ10メートルほどにもなる。耐寒性が強く、日本では盆栽などによく利用されるようだ。近種にエゾノコリンゴ(英名 Manchurian crab apple)というのがあり、これも「ヒメリンゴ」と呼ばれることがあるそうだ。よく似ているからだろう。私が見つけたのがどちらかは定かでない。後者のヒメリンゴは中部地方以北、東北アジアからヒマラヤにかけて広く分布し、耐寒力があるのでリンゴの接木台に利用されるらしい。日本に原生していたのもこの種というが、現在の栽培種のリンゴはすべて欧米種からの改良型である。
谷口 雅宣
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コメント
初めまして。ヒメリンゴには二つの学名があります。
(1)ヒメリンゴ(学名:Malus prunifolia):中国から伝わったイヌリンゴとヒメリンゴは異名同種という説。その場合英名は Plumleaf Crabapple と表記します。
(2)ヒメリンゴ(学名:Malus x cerasifera):中国から伝わったイヌリンゴと北海道などに自生するエゾノコリンゴ(学名:Malus baccata var. mandshurica、英名:Manchurian Crabapple)との交雑という説。その場合は英名が見つかりません。
(注意):Chinese (Flowering) Crabapple と英語で表記するとホンカイドウ(本海棠、学名:Malus spectabilis) を指すので注意してくださいね。
またChinese crabapple の表記でコホクカイドウ/湖北海棠、ツクシカイドウ(学名:Malus hupehensis)を指す場合もあります。でもこの場合は英名では Hupeh Crabapple 又は Tea Crabapple と表記することのほうが多いです。
投稿: 法念 | 2009年5月20日 08:43