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2005年11月 8日

日本人が卵子を買っている

 韓国で日本人への組織的な卵子斡旋が摘発された。今年1月から同国で施行された「生命倫理および安全に関する法律」違反の容疑でグループの11人が逮捕されるとともに、このグループから卵子の斡旋を受けていた日本人が249人もいることが明らかになった。グループの事務所は東京・渋谷にもあり、押収された名簿には約380人の日本人女性の名前が書かれていたほか、インターネット上に会員約2千人を擁する卵子売買のサイトが設置されていた。韓国人の卵子の値段は1件当たり33万~56万円といい、それを日本人女性には約190万円で提供していたというから、営利目的の商売だと見ることができる。11月7日付の新聞各紙が一斉に報道した。
 
 卵子の斡旋や提供、売買の是非については、私は『今こそ自然から学ぼう』(生長の家刊、2002年)の第5章(pp.294-302)でやや詳しく書いているが、霊魂の不滅を信じる宗教の立場からは、これほど矛盾に満ちた行為はなく、倫理的にも正しくない。また、人間同士の差別や人身売買にも通じるという意味で、社会的にも弊害が大きい行為である。ここで簡単に卵子斡旋(あるいは提供)により子をもうけることの問題点を要約すれば、①他人を自己目的に利用する、②他人の生命の売買につながる、③優生思想を助長する、の3点が挙げられよう。

 ①は、卵子を採取する際、提供主の女性の肉体をもっぱら自己目的の手段として利用するだけでなく、多胎妊娠時の減数手術などで受精卵の無用な廃棄(本質的には殺人)を行うことを指す。②は、今回の例にも見られるように、卵子提供者と子を得る者との間に様々な人々が介入するため、金銭の授受が不可避であり、事実上、人の生命の売買となる点を指す。③は、子を得る側が受精卵提供者を人種、国籍、収入、学歴、IQ等によって選ぶことで、一般的に“優秀な人間”とされる人(そして、その人の卵子)が優遇される傾向が生じることを指す。もっと簡単に言えば、“優秀”とされる人の卵子の高い値段で取引され、そうでない人のものの値段が安くなり、結局、卵子の時点から市場を通して人間の優劣が決められていくことを指す。

 上記の①~③が宗教的、倫理的、社会的に好ましくないことは明らかだが、さらに生まれてくる子と提供者の立場から考えても、好ましくない点がいくつもある。それは、④子の出自の不明確化、⑤出自を知った際の子への心理的影響、⑥提供者への事後の心理的負担、である。生まれてきた子に対して、その子がどのようにして誕生したか(出自の由来)を知らせるべきかどうかについては、議論が分かれている。しかし、かつては「出自秘匿」が原則だったものが、先進国での今の趨勢は「出自開示」の方向に動いている。これは、精子提供によって生まれた子供たちが今や成人し、「出自を知る権利」を続々と主張するにいたり、多くの先進諸国がこれを判例や法律で認めるようになってきたからだ。この動きが続けば、将来は「出自開示」が原則となるだろうから、卵子提供によって生まれた子は、誰が卵子提供者かを事後(多くの場合は成人後に)原則的に知ることになる。すると、子への心理的影響が生じるとともに、卵子提供者にも同様の負担が生じるようになる。後者の場合、卵子提供者が中年になって突然、見知らぬ若者から「あなたは私のお母さんです」と言われる事態を想起してほしい。

 これほど多くの問題を抱えた技術を、「個人の願望」と「個人の自由」だけを理由にして容認すべきかどうかと考えれば、韓国が卵子斡旋や卵子提供を法律で禁じた理由が理解されるだろう。逮捕された卵子斡旋グループのウェッブサイトに登録されていた約2千人の会員(そのほとんどは日本人と思われる)たちが、このような問題を事前に真剣に考えていたとは思えない。私は「子をもちたい」という親の強い願望を理解しないわけではないが、「願望が強い」というだけで何ごとも許されるべきとは思わない。韓国に比べ、日本では卵子提供を含む生殖補助医療に関する法律は未整備である。このことが、「法律に違反しないことはしていもいい」との誤った理解を生み、今回のような事態を生む大きな原因になっているように思う。日本の関係省庁は早急に法案を策定し、国会で充分に審議して、法律制定を早期に実現してもらいたい。

谷口 雅宣

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