バイオ燃料が森林浸食?
地球環境問題の解決には、各国がそれぞれの“国益”を優先してバラバラに対処するのではなく、世界の国々が足並みを揃えて協力することが重要だ--化石燃料に代わる次世代燃料の生産の現状を知って、このことを強く感じる。バイオ・エタノールとかバイオ・ディーゼルなど、サトウキビ、ダイズ、トウモロコシ等の植物を原料として作られる燃料の生産が急速に増えているが、皮肉なことに、このことが途上国の森林破壊に油を注いでいるというのだ。11月19日付のイギリスの科学誌『New Scientist』が伝えている。
同誌によると、京都議定書などで温室効果ガスの削減を義務づけられている先進諸国は、上記のような次世代燃料の生産に本腰を入れ始めているが、そのことが不本意ながら、ボルネオからアマゾンにいたるまでの熱帯雨林の破壊を助長しているそうだ。なぜなら、これらの“グリーン・エネルギー”に対する新たな需要に応えるために、これまで人間の手の入っていなかった森林が切り開かれて畑となり、ヤシの木やダイズが植えられているからだ。石油の高騰により代替燃料として需要が高まっているだけでなく、EUでは通常の燃料にバイオ燃料を混ぜることを義務づけると共に補助する法律が施行された。またイギリスでは、2010年までに交通や運輸部門で使われる燃料の5%をバイオ燃料でまなかうとの目標を、政府がすでに発表している。こういう動きが、森林破壊の傾向に拍車をかけているようだ。
もっと具体的に言えば、ヤシ油の国際価格が上昇しているが、これが東南アジアでの森林破壊の主な原因になっているという。イギリスに本部のある雨林基金(Rainforest Foundation)のサイモン・カウンセル氏(Simon Counsell)は、ヤシ油のことを「地球上で最も環境破壊的な商品の一つ」と呼び、「我々はまたもや、途上国の環境を傷めつけることによって自分たちの環境問題を解決しようとしている」と言う。ヤシ油の代わりとしてはダイズ油があるが、ダイズ栽培は現在、ブラジルのアマゾン地域に森林破壊をもたらす最大の原因になっているらしい。ドイツでは、バイオ燃料の生産量が2003年のレベルから倍増していて、火力発電所でヤシ油を燃やす計画もあるそうだ。ヨーロッパでは、もともと家庭で栽培するアブラナから採ったナタネ油をバイオ燃料として使っていた。しかし、食用としてナタネ油の需要が増えてくると値段も上がったため、燃料用にはヤシ油とダイズ油に切り替えたという。ヤシ油の値段は、9月だけで1割上昇したそうだ。一方、世界でのバイオ燃料全体の需要は現在、年25%も上がっているという。
市場の価格形成メカニズムだけを指標として燃料用の植物を栽培するのでは、このような矛盾した開発行為は避けられないと思う。森林を「再生可能な」状態に保っておかなければならない。そのためには「自然資本」(自然そのものに価値を認め、資本として扱う)の考え方が重要である。現在の経済制度では、この自然資本が正しく評価されていないことは本欄でも述べた。この考えを世界が早急に導入し、手つかずの森林に正当な値段をつければ、森林を無惨に焼き払ったり、切り倒したりする行為は「元が取れない」として減っていくだろう。これには、世界各国間の協力がどうしても必要なのだ。
谷口 雅宣
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