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2005年11月25日

科学者の倫理性 (3)

 韓国ソウル大学のES(胚性幹)細胞研究チームの倫理疑惑で、さらに一つ問題点が明らかになった。チーム内の研究助手2人から卵子の提供を受けていたことが判明したからだ。このチームの代表者であるファン・ウー・ソク教授(Hwang Woo Suk)は、英国の科学誌『Nature』が1年以上前にこの疑惑を記事にするまでは、そのことを知らなかったらしい。しかし知ってからも、提供者のプライバシーを守るためにこの事実を否定し続けていた。11月24日に行われた記者会見で、ファン教授は研究に使われた卵子の入手方法について嘘を言ったことを認め、先月鳴り物入りで発足した世界幹細胞ハブの所長を辞任する考えを明らかにした。24日と25日付の『ヘラルド朝日』紙が伝えている。
 
 同紙の記事によると、ファン教授は「私は仕事と目標達成に熱心なあまり、正しい判断ができなかった」と言い、さらに「もっとゆっくりと考え、すべてのことが国際的基準に合致しているかどうか確認すべきだった。韓国国民と内外の科学界の方々に心からお詫びします」と述べたという。22日の本欄で報じたように、ファン教授のチームの研究で使われた卵子には、協力者一人当たり150万ウォン(約16万5000円)の対価を払って約20人から入手したものもある。研究助手からの卵子入手も合わせて考えてみると、最先端の医療技術の開発に賭ける研究者の情熱が感じられるとともに、科学者といえども“手柄”をたてたい気持が昂じて、倫理的判断を疎かになる場合があることが分かる。
 
 卵子提供の問題点については、拙著『今こそ自然から学ぼう』(2002年、生長の家刊)の中で少し述べたが、その時の卵子提供は「子をもうけるため」のものだった。今回の場合はそうではなく、人クローン胚を作成して、そこからES細胞を得るために卵子を使う。『今こそ……』では、人クローン胚に関して霊魂の問題に触れて次のように述べている--

クローン胚が受精卵を含めた個人の命を犠牲にせずにつくられるとしても、それが肉体製造装置の「胚」としての能力を獲得した時点で、霊魂の関与が始まったと見るべきである。

 これは、人クローン胚は事実上、受精卵と同等に扱うべきだとの考え方である。したがってこれを「大量につくって選別したり、強制的にES細胞に変換されたりする」(p.274)のは好ましくないのである。ES細胞作成のためには、予備分を見込んで人クローン胚を数多くつくっておき、それらから“優秀”なものを少数選別することが考えられる。これは、霊魂と結びつきができたものを他人の道具として利用することである。それが好ましいはずがない。さらに、上記したように、ES細胞作成を目的とした卵子提供は、実質的には卵子の売買となりやすいこと。また、作成された人クローン胚は、子宮にそのままもどせば“クローン人間”になるリスク等を考えれば、隣国・韓国で先行的に進められているES細胞の研究は、誉められるべきことばかりではないのである。
 
谷口 雅宣

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