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2005年11月22日

科学者の倫理性 (2)

 1週間前の本欄(11月14日)で、ES(胚性幹)細胞の研究でトップを走るソウル大学の研究チームに倫理基準を違反した疑惑が生じていることを書いたが、この研究を支援していた病院理事長、ロー・スン・イル氏(Roh Sung Il)が、協力者一人当たり150万ウォン(約16万5000円)の金銭的対価を払って卵子を入手していたことを、21日に開かれた記者会見で認めた。しかし、もう一つの疑惑--研究助手の女性医師から卵子の提供を受けていたかどうかについては、答えなかった。22日付の『ヘラルド朝日』や『朝日新聞』が報じている。(対価をもらった女性の数は、前者では20人、後者では16人という)
 
 韓国では今年1月から生命倫理法が施行されていて、卵子提供に伴う金銭や利益の供与は禁止されているが、今回の金銭授受は法律施行前だったという。ソウル大の研究チームは、世界で初めて人クローン胚からES細胞を作成したが、このチームの代表者であるファン・ウー・ソク教授(Hwang Woo Suk)は、ロー理事長に提供された卵子を使ってこの研究に成功したのだ。が、金銭の授受については知らなかったという。ロー氏によると、この研究のために必要な数の卵子を入手することが難しかったので、卵子提供者にいくらかの対価を払わざるを得なかったという。ロー氏は、「難病の治療法を見つけるという人類の大きな夢の一つを実現する道を切り拓きたいと願い、この難しい決定をした」と涙をこらえながら語ったそうだ。

 アメリカではこの4月に、卵子提供の際の対価として実費以外のものを禁止すべきとの方針をアメリカ科学協会が発表しているが、強制力のある法律はまだない。ロー氏によれば、支払った金額は、卵子を採取する際の不快や不安、通常の仕事ができなくなることへの代償だという。しかし、韓国のMBC放送は、研究に使われた卵子の一部は、借金を抱えた女性が金銭目的で提供したものだと報じ、提供する卵子が何の目的に使われるのか知らなかった女性もいると報じている。
 
 私は、世界に先駆けて生命倫理法を制定実施した韓国は立派だと思う。それがたとえ、再生医療の分野で世界一を目指すという野心にもとづくものであったとしても、一定の法的基準を世界に提供するという大きな貢献をしていると思う。しかし、アメリカでは何年も前から、代理母や卵子提供が、相当な対価を伴って行われていることを考えると、実効性という面では疑問が残る。例えば、韓国国内で入手できないときは、アメリカで入手すればいいということにならないだろうか? インターネットを介した海外の提供者との授受はどうなるのか? こういう問題は、多国間の合意によって解決の方向へ向うのだと思う。時間はかかると思うが、世界共通の倫理基準の策定が求められているのである。

谷口 雅宣 拝

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