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2005年11月 5日

認知された「石油ピーク説」(2)

 前回、石油生産がまもなくピークを打つという「石油ピーク説」が認知されだしたと書いたとたんに、本欄の読者から11月4日の『毎日新聞』の記事のコピーをいただいた。そこには次のようにある:

 石油生産は左右対称の釣り鐘型の曲線を描いて増減すると考えられている。65~70年をピークに減り始めた米国の石油生産のデータから、米地質学者のハバート博士が導き出した経験的モデルだ。地球上にある石油の半分が採掘された時点で、生産量は急激に減り始めると予測されている。

 これは「石油ピーク説」そのものである。ということは、『朝日』はこの説に対してまだ慎重だが、『毎日』はこの説を採用したように見える。続いて次のような文章がある:
 
 米地質調査所(USGS)は、未発見の油田を含めた究極可採埋蔵量を3兆3450億バレルと推定する。世界中の研究者が予測する中で最も楽観的な数値だが、それでも生産量は20~25年後にピークに達し、そこから減少を始める見通しだ。

 これはつまり、USGSも石油ピーク説を採っているが、そのピークが来る時期について最も楽観的見方をしているということなのだろう。(最も悲観的な予測は、前回紹介した。)また、この『毎日』の記事には、昨今の石油高騰の背景にはピーク説があると言い切っている専門家が登場する:

 お金を出せば石油が買える時代はしばらく続くが、中東問題に詳しい東北文化学園大の小山茂樹教授は「石油価格高騰の根底には、石油生産のピークが近づいている事実がある」と指摘する。

 こうなると、「石油ピーク説」はいつのまにか専門家の間の“主流”的考え方になってしまったように見える。一体どうしたことだろう?……。私が想像するに、専門家というものは、自分の責任ある分野の重要な判断について突然考えを変えるということはあまりないから、これはジャーナリストの“心変わり”が原因なのだ。彼らは、これまでは「ピーク説」否定派から多く取材していたのを、何らかの理由で肯定派から取材するように“心変わり”したに違いない。だから、最近の紙面や誌面には「ピーク説」論者が多く顔を出すようになった--こう考えてはどうだろう。

 まぁ、事の真偽は闇の中だが、重要なことは、石油に関係する企業が実際にどのような方向に動いているかである。それについては、今日(5日)の紙面には大きなニュースが1つ載っている。石油開発で国内最大手の「国際石油開発」と国内弟3位の「帝国石油」の経営統合への合意である。両社がなぜ合併に動くかというと、「資源高を背景に石油・天然ガス開発の国際競争が激化するなか(中略)、両社は有力鉱区獲得と十分な開発資金の確保を狙」(『日経』)うためである。これをもっと別の角度から表現すると、近年は新たな油田の発見が困難となり、石油の採掘には莫大なコストがかかるようになってきたことから、石油関連企業は合併による企業規模の拡大によって、費用の調達と有効な力の行使を考えているのである。このところの石油の値段の“高止まり”は、そういう大規模な投資を可能にするような大きな利益を、石油関連企業にもたらしているのだ。

 消費者の我々としては、どうすべきか。これへの答えは明確である。石油ピークが到来すれば、その後の石油の利用はいわゆる“ゼロサム・ゲーム”となる。つまり、世界の石油生産量は次第に減少するのだから、「誰かが利用すれば、誰かが利用できなくなる」のである。石油資源の“奪い合い”の時代に突入するから、石油をめぐる政治的対立がますます深刻化するだろう。これに加え、地球温暖化防止を優先する立場から言えば、我々は使用するエネルギー源を、石油などの化石燃料から再生可能な自然エネルギーにできるだけ速やかに変えていかねばならないのだ。

谷口 雅宣

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