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2005年10月 8日

鳥が運ぶメッセージ

 鳥インフルエンザの感染拡大が、世界的問題になってきた。

 日本では、今年6月以降、埼玉県や茨城県の養鶏場など合計31ヶ所で弱毒性の高病原性ウイルスに感染した鳥が見つかり、これまでに約150万羽が殺処分された。アジアの他の国々では人に感染するという深刻な被害に発展していて、少なくとも60人が死亡している。被害者のほとんどは鳥から直接感染したと考えられているが、ウイルスが人から人へ感染する形に変異することが恐れられており、それが起こると、グローバル化した人の流れに乗って世界中で急速に感染が拡大し、強毒性のA(H5N1)型のウイルスなどは何百万人もの犠牲者を出す可能性が指摘されている。
 
 そんな中で、世界で2000万~5000万人の死者を出したとされる1910年代末のスペイン風邪のウイルスの遺伝子が、鳥インフルエンザのウイルスとよく似ており、アジアで流行中のH5N1型ウイルスとも共通性が高いことが、科学者によって発表された(英科学誌『ネイチャー』10月6日、米科学誌『サイエンス』同7日号)。つまり、鳥のウイルスが突然変異によって人間のウイルスに変化したことにより、過去において実際に大惨事が起こった可能性が浮き彫りにされているのだ。

 10月8~9日付の『ヘラルド朝日』紙によると、これに対処するための薬としては現在、経口薬「タミフルー」(Tamiflu)と吸引式の「リレンザ」(Relenza)の2種が有力視されている。これらは、通常のインフルエンザの治療薬として開発されたものだが、H5N1型の治療にもある程度有効と考えられている。このタミフルーの売り上げは、今年の前半6ヶ月で、昨年同時期の4倍に当る4億5000万ドルに達している。これは先進各国がインフルエンザ拡大を予想して備蓄を始めているためで、アメリカの連邦政府はすでに230万人分を買い上げ、年末までにさらに200万人分を買い足す予定という。ヨーロッパの国はもっと先行していて、人口の2割から4割を治療できる量のタミフルーをすでに入手しているという。

 人間が動物を食したり飼ったりすることは、本来離れた場所で生きてきた別種の生物が直接接触し、あるいは至近距離で生活することを意味する。こういう習慣は、太古の時代から人類が行ってきたものではあるが、現代ほど頻繁に、大量に行われたことはない。特に最近は、食べたり飼う動物の種類が広がり、飼育方法が大規模化し工業化したことで、動物から人間への細菌やウイルスの感染の機会が飛躍的に増えている。また、一度発生した感染症は、高度に発達した交通網に乗って急速に拡大する傾向が見られる。似たようなことは、かつてSARSの流行で経験した。今度は鳥によって同じメッセージが運ばれようとしているのかもしれない。人間だけが繁栄し、他を犠牲にする生き方が、自然からシッペ返しを喰らうもう1つの例にならないように、祈るばかりである。

谷口 雅宣

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