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2005年10月11日

北極海の開発競争

 9月30日の本欄で北極圏の氷結部の面積が今年9月、過去最小のサイズになった話を取り上げた。そこでは、NASA(米航空宇宙局)の衛星写真によって、今年の9月と26年前の同じ月の北極圏の違いを比較した。この2枚の写真は、その後に行われた群馬と秋田の生長の家講習会でも使い、聴講者には「ロシア北端の凍結していた海が今は航行可能」であり、さらに北大西洋北端にある「グリーンランドの氷が溶けると海面上昇が加速化する」ことなどを話した。このような北極圏の氷の消失は長期的には大変憂慮すべきことである。が、短期的に考えれば、人類にとって経済的利益をもたらすものでもあるかもしれない。

 例えば、北極の海が夏期に航行可能となれば、ロシアやカナダに住む人々にとって、物資の輸送や人間の移動がきわめて容易になる。また、厚さ何十メートル、何百メートルもの氷床で覆われた海の資源探査はほとんど不可能だが、氷がなくなれば資源の探査や開発がこれまたきわめてやりやすくなる。そうなるとロシアやカナダの人々にとっては、少なくとも短期的には地球温暖化は「悪い」とばかり言えないのかもしれない。かつてロシアのプーチン大統領が、京都議定書の批准前に「ロシアにとっては、少々気候が温暖化してくれた方がいい」などと発言してひんしゅくを買ったことを思い出す。しかし長期的には、人類全体や生態系にとって温暖化や海面上昇が「悪い」ことには変りはないのである。

 このように短期的利益と長期的不利益が対立したり、部分的利益と全体的利益が矛盾することは、社会や人生のいろいろな側面で目撃されるが、普通は、その場にいる“上位の権威”--例えば、親、種族長、統治者、規則、法律、国家など--の決定によって対立が治められるものである。しかし、現在の国際社会では、国連等の国際機関は存在していても、究極的な力や権威の根源は「国家」に委ねられているから、北極海での資源開発が可能となった場合の国家間の利益の調整は、きわめて難しい問題となることが予想されるのである。

 そういう問題がすでに目前にあることを、10日付の『ヘラルド朝日』紙が教えてくれている。記事の伝えるところでは、コロラド州デンバーに住むある起業家は1997年に、カナダのマニトバ州チャーチル市のハドソン湾に面した港湾施設を、わずか7ドルでカナダ政府から購入したという。そこはほとんど誰も使わない、見捨てられた施設だったからだ。が、この起業家は、北極海航路ができた暁には、この港は年1億ドルもの収入をもたらすと計算した。なぜなら、北極ルートの航路は南回りよりも何千マイルも短いからだ。そして、温暖化により氷が減れば減るほど、港湾施設の需要は増えることになるのである。

 この起業家のような発想のもとに今、北極海では未開拓領域の天然資源--海底油田や天然ガス田--の開発競争が始まっているという。科学者は昨年の探査で、北極から320キロの地点の海底に石油の存在を示す証拠を見つけた。そして、アメリカ地質学研究所の概算によると、世界中でまだ発見されていない油田や天然ガス田の四分の一が北極圏に存在するという。これに漁業資源や観光資源の開発の可能性を加えると、地中海の5倍の広さをもつ北極海の利用は、大変魅力的に見えてくる。が、問題がもう1つある。それは、これまで氷で閉ざされていたこの海域が「誰のものか」ということだ。国連海洋法条約の規定では、海の所有権は、沿岸の国の大陸棚がどのように延びているかで決定する。そこでロシアを初めカナダ、アメリカ、ノルウェーなどの北極海沿岸諸国は今、海底探査と資源探査を北へ北へと進めているらしい。

 世界の国々は、化石燃料の“中毒症状”を示しているのではないか、と私は思う。北極や南極の氷が溶け、世界各地の高山では氷河が次々に退縮し、ハリケーンや台風は巨大化し、雨季には集中豪雨で各地が水浸しになり、乾季には逆に山火事が猛威を振るう……その大きな原因が化石燃料の過剰消費にあるにもかかわらず、その消費を減らすどころか、我先に消費を推進する準備に奔走している。この“人類の業”の力から抜け出す知恵は、一体どこにあるのだろうか?

谷口 雅宣

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