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2005年9月 2日

巨大ハリケーンは何を語る

 アメリカの南部を襲った巨大ハリケーンの被害が明らかになってくるにつれて、他国のことながら、私は心が重くなるのである。このハリケーンは、上陸前から“史上最大級”であることがアメリカのメディアで喧伝されており、地方によっては避難勧告や命令まで出した。にもかかわらず、避難する手段や場所のない多くの貧しい人々の命が犠牲になってしまった。9月2日付の『ヘラルド朝日』紙によると、ニューオールリンズ市長の推定では、死者の数は同市だけで数千人に及ぶといい、2万人以上の避難民が収容された同市のフットボール場「スーパードーム」では、食糧難と汚物の中、気温が38℃にも達する地獄のような悪条件から逃げ出そうとする市民が、用意された300台のバスめがけて我先に殺到したという。市長の推定が正しければ、今回のハリケーンの被害は、アメリカでは1906年のサンフランシスコ大地震(死者約6千人)以来の大惨事になるらしい。亡くなられた方々の冥福を心からお祈り申し上げます。

 人口約50万人のニューオールリンズ市の大分部は海抜ゼロメートル以下の低地で、市の南部を流れるミシシッピ河畔と北部にあるポンチャトレイン湖岸に設置された堤防によって水から守られている。これらの堤防は、しかし「カテゴリー3」の大きさのハリケーンの力に耐えても、それ以上のものには耐えられない設計だったという。今回のハリケーン「カトリーナ」は一時「カテゴリー5」にまで発達し、その後「4」に衰えて上陸した。だから、この街が水の下に埋まることは事前に充分予測できたのだ。同市のあるルイジアナ州以外にも、アラバマ、フロリダ、テキサスなどメキシコ湾に近い州の被害が大きかった。そして、これらの州は油田地帯に近接している。つまり、石油や天然ガスの採掘・精製・運搬、それを原料とした石油化学工業などが発達した地域だ。だから、ハリケーン「カトリーナ」の湾岸地域上陸が確実視され始めると、原油の値段は急上昇して1バレル70ドルを突破した。この地域の産業がハリケーンの被害から立ち直るまでは、原油の値段は今後上昇することはあっても、急激な下落は見込まれないだろう。

 原油の値段のことを書くと、どうしても中東の問題を思い起す。原油の値段は中東情勢とも密接に関わっているからだ。産油州のテキサス出身で、同州の知事でもあったブッシュ大統領が、9・11テロをきっかけにイラクの政権転覆をはかって軍事侵攻し、世界第2の埋蔵量をもつイラクの石油が事実上止まった。その後、同国の内戦状態は一向に治まらない中で、今度はアメリカ本国の石油産業がハリケーンに襲われた。その被害の中で、都市では被災者による商店の略奪が続いているが、治安要員の不足が言われている。ところが、ルイジアナ州の国家警備隊員のうち3,000人と、ミシシッピ州の警備隊員の3,800人が、今はイラクの治安維持に当っている。これらの海外派兵隊員は、それぞれの州の警備隊員総数の約四割に当るという。そして、もう一つ無視できないことは、ハリケーンや台風が大型化することは、地球温暖化の影響の一つとして科学者が前から予測してきたことだ。「化石燃料」の周辺に、これだけの問題が集中して起こっていることに気づいてほしい。

 8月31日付の前掲紙オピニオン欄に、ロス・ゲルブスパン(Ross Gelbspan)というライターが「ハリケーン・カトリーナの本当の名は」という記事を書いていた。その答えは「地球温暖化」なのだという。彼は、今年の初めにロサンゼルス市で60センチの積雪があったこと、スカンジナビア半島で時速200キロの暴風が吹いて原発をいくつも停止させたため、アイルランドと英国が停電したこと、この夏の初め、アメリカ中西部のミズリー川が旱魃で枯渇したこと、7月にはヨーロッパを旱魃が遅い、スペインとポルトガルでは山火事が燃え広がり、フランスでは過去30年で最低の降水量となったこと、アメリカではアリゾナ州を襲った熱波のために1週間に20人以上が死んだこと、インドのムンバイでは1日37インチの豪雨が降ったため1千人が死に、2千万人に被害が出たことなどを指摘し、「その原因はすべて地球温暖化だ」と結論している。理由は、「大気圏が暖まるにつれて、旱魃は長引き、降雨量は増え、熱波は頻繁に訪れ、嵐は深刻化する」からだそうだ。

 世界規模で変動しつつある気候をどう解釈し、どう対応していくべきか。日本の我々も“対岸の火事”のように眺めていてはいけないのだ。

谷口 雅宣

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