大型台風、列島襲う
昨日(9月11日)の本欄で、地球温暖化と暴風雨の大型化の関係を“水”を使って説明したが、自分で書いてみて完全に納得できたわけではない。この分野は、素人には複雑すぎるのだ。そう感じていたら、今日付の『ヘラルド朝日』紙に、ニューヨークタイムズのコラムニスト、ニコラス・クリストフ氏(Nicholas D. Kristof)が専門家の見解を紹介してくれていた。それによると、「入手できる科学的データを見ると、地球温暖化は今後、ハリケーンをより破壊的にするか--あるいは既により破壊的にしつつあると考えることができる」という。ハリケーンの力の一部は暖かい水から来るものだから、海面の温度が上昇するとそれだけ強力になるらしい。昨年、『気象(Climate)』という雑誌に発表された論文では、1200もの気象シュミレーションをまとめた結果、温室効果ガスの排出が増えるにつれて、「カテゴリー5」という最大級のハリケーンの発生率は3倍になりえるとしたそうだ。また、今夏発行された科学誌『ネイチャー』の中で、マサチューセッツ工科大学のハリケーン専門家、ケリー・エマニュエル氏(Kerry Emanuel)は、ここ30年の間に、ハリケーンの強さはほとんど2倍になったと述べているらしい。ただし、ハリケーンの発生頻度は、必ずしも上昇していないようだ。
クリストフ氏がこの論説で紹介していたウェッブサイトへ行ってみた。そこはブログの形式で気象学者が自分たちの研究を発表したり、気候変動の現状をどう評価するかを述べ、それに対して、主として科学者が質疑応答を行い、また批判検討を加えるサイトである。目的は、研究のためというよりは、一般の関心ある人々やジャーナリストに正確な科学的知識を提供することにあるらしい。こういうサイトができて、それを世界中の人がほぼリアルタイムに見ることができるというのは、やはりインターネットなしでは考えられないことだ。
クリストフ氏が論説中で紹介していた論文は、5人の気象学者の名前で9月2日付で発表されたもの。英文で4ページの比較的分かりやすい論文だが、その後に科学者からのコメントが(今日現在で)120もついている。興味のある方は一読をお勧めする。温暖化と暴風雨の“激化”の関係については、その中で「案外単純だ」として次のように書いてある--「ハリケーンのエネルギー源は、暖まった水と、それによって生み出される大気圏下層の不安定な空気の流れである。だから、台風やハリケーンは熱帯で、しかも海面温度が最も高くなる時期にしか発生しない」。
ところで話題はまったく変わるが、今朝の『産経新聞』1面の巨大な見出しを見て、私は日本にハリケーンが襲来したのかと思った。曰く、「自民圧勝 列島のむ」。スポーツ新聞のような見出しで、文法的には正しくない。また、比喩としても少しオカシイと思う。むしろ「自民人気 列島をのむ」とか「自民圧勝 列島包む」ぐらいの方が正しい日本語と言える。しかしまぁ、この見出しを考えた整理部のデスクは、きっと「息を呑む」思いで開票結果を見つめていたのだろう。だから、「自民圧勝の勢いに息を呑んだ」という気持で、この見出しを選んだのかもしれない。私自身は「息を呑む」というよりは、ややガッカリした。“無党派層”と呼ばれる国民の大多数が、見事に小泉首相の土俵に載って踊ってしまったと感じた。しかし、投票率のよさを考えると、恐らく「喜んで踊った」のだろうから、これを「民主的な選挙」と呼ばなくて何と呼ぶべきか。「分かりやすい」彼の手法が、これまでのヌエ的な、分かりにくい自民党政治を凌駕していることは否定できない。そういう意味で、小泉氏は政治家としては傑出していると思う。
『産経』は、やや興奮気味に「今回の選挙を通じて、自民党はかつての『利益誘導、地域代表』政党から『国益優先、国民代表』政党への脱皮し始めた」と書いているが、それが「希望」の表明であれば問題ないが、「事実」のごとく書くのはいただけない。ジャーナリズムの冷静さを忘れないでほしい。これで郵政民営化は実現するだろうが、「その先」がなかなか見えない。『朝日』は「『郵政』以外を明確に語れ」と書き、『産経』も「首相が問われるのは、郵政民営化に続いて何をやるのかだ」と書いている。私としては「環境税」の実施を含んだもっと積極的な環境行政と、化石燃料依存型の産業から新エネルギー重視へと日本のエネルギー利用の方向を大きく転換してもらいたい。しかし、相変わらず「利益誘導型」の政治は続くだろうから、まぁ、そういうことにはすぐにはならないでしょう……。
谷口 雅宣
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