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2005年9月27日

フランスで遺伝子組み換えブドウ

 ブドウが収穫され、新しいワインが店頭に出る季節となった。ワインはフランスが“本場”ということになっているが、そのフランスで今、遺伝子を組み換えたブドウの栽培が密かに行われているらしい。と言っても、9月27日付の『ヘラルド朝日』紙がそれを報道しているのだから、もう「密かに」というわけにはいかない。遺伝子組み換え作物はアメリカでは盛んに作られているが、ヨーロッパ人はそれを“フランケン作物”などと呼んで毛嫌いしてきた。しかし、科学者の考え方には米欧の区別はないのかもしれない。

 シャンパンのメーカであるメーシャンドン(Moet & Chandon)は、ブドウのウイルス病に対する耐性をつけるために、1990年代から遺伝子組み換え技術を使った研究を進めてきたという。現在は、フランス農業試験研究所(National Institute for Agronomic Research)がライン川の近くの農場で、組み換え種のブドウを台木とした品種70本の生育実験をしているらしい。このブドウにつくウイルスは、フランスのブドウ畑の三分の一に存在していて、これが発病すると葉は黄色くなって、実を結ぶ前に花は枯れてしまうという。そこで科学者たちは、農薬を大量に撒いてウイルスを運ぶ虫を殺したり、ウイルスに感染した畑を破壊してウイルスが死滅するまで10年間も待つよりは、ウイルスに耐性をもつ遺伝子組み換えを行った台木に、従来種を接木するのがいいと考えたのだ。

 しかし、遺伝子組み換えへの反発が強いフランスでは、この種の試みに反対する人も多いから、この研究所の試験圃は高さ180センチのフェンスで囲まれ、侵入防止用のセンサーとビデオカメラで守られているという。また、組み換え種のブドウが他へ拡散したり在来種と交雑したりするのを防ぐために、遺伝子を組み換えるブドウを選定する際、葉の形状が他種とは一目で違う種を選ぶなど、神経を使っているらしい。しかし、こういう処置は所詮一時的な効果しかないだろう。組み換え種を本格的に栽培することになれば、自然界に組み換え種の遺伝子が広がっていくことはアメリカの例を見れば明らかだ。そして、フランスのブドウの多様性は徐々に失われていくのだろう。それがワインの「質」や「味」にも影響を与えることになるかもしれない。

 ところで、ワイン通でない私はまったく知らなかったのだが、フランスで栽培されているブドウのほとんどは接木で育てられ、台木はすべてアメリカから来た品種だという。その理由は、1800年代末にこの国のブドウのほとんどは、アメリカから来たネアブラムシにやられてしまったからだ。この害虫に耐性のあるブドウはアメリカにしか存在しなかったから、フランスはそれを輸入し、ヨーロッパ産の様々な品種をそれに接木することによって、これまでブドウを生産してきたというのだ。何とも象徴的な話ではないか。グローバリゼーションが進むと、農産物は「単一化」の方向に向うのである。フランスのあの多様なワインの種類は、その単一化をかろうじて接木によって補ってきたのだ。今後、ウイルス病に耐性のあるブドウが遺伝子組み換えで開発されれば、それが全世界を覆うことになるのだろうか。そして、その品種の弱点が分かったときには、もうそれを補う品種は地上に存在しなくなっている。そんなことにならないか、心配である。

谷口 雅宣

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