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2005年9月11日

「天空の貯水池」を消すな

 生長の家の講習会が北海道の小樽市であり、私は午後の時間、氷河が世界的に減少していることに言及した。8月27日号の『NewScientist』誌の特集記事の一部を紹介したのだが、そのことと、昨今の台風やハリケーンの大型化の関係を知ってほしかったからだ。この氷河と台風の関係は、何か「風が吹けば桶屋が……」のように聞こえるところが、気象現象の複雑さをよく表している。

 まず、氷河減少の現状を上掲の記事からかいつまんで紹介すると--スイスのチューリッヒにある世界氷河観測サービス社によると、2002~03年に調査した88の氷河のうち、少なくとも79の氷河は後退していて、成長しているのはわずか4つだという。アフリカの最高峰、キリマンジャロの雪のことは拙著『今こそ自然から学ぼう』でも触れたが、この山の山頂付近の雪を調べると、少なくとも1万1千年前からそこにあることが分かっているが、最初に調査した1912年に比べて、現在はその8割が消失しており、あと20年もすれば山頂の雪や氷はすべてなくなると言われている。また、中央アフリカのケニア山では、1900年以降に18の氷河のうち7つが消失し、ニューギニアの西メレン氷河は、1990年代末になくなった。ペルーのアンデス山脈では、過去30年間で山頂の雪や氷の四分の一がなくなっており、ベネズエラでは1975年以来、6つの氷河のうち4つが消失した。中国では1980年以降、4万6千の氷河から約7%の氷が失われ、中央アジアの天山山脈の氷河の表面積は、1955年から2000年の間に四分の一が減少した。

 氷河の機能は「天空の貯水池」だと言われる。それは、大気圏から降り注ぐ水を地表に流す前に、氷の形で貯蔵しておく役割だ。この貯水池の機能のおかげで、冬季に降った雪や雨は“天空”に固定され、春から夏にかけてその一部が溶けてゆっくりと地表に流される。山の斜面を下る速度は、氷が解けて流れる方が、降雨が一気に流れるよりもはるかに緩慢である。だから、地中に浸透して地下水になる量も多く、雪解け水は、山の麓の森林や農産物を育てるのである。ところが、地球温暖化が進むと、氷河は後退--つまり、空の方向へ退縮する。これは「天空の貯水池」の水がそれだけ減ったことを意味する。それに加えて、春になって麓に流れる水(雪解け水+雨)の量が増える--これは、春に「洪水」が起こる危険性が増えることを意味する。また、夏に乾期がある地方では、“貯水池”の水量減少のため、夏まで流れ続ける水の量が減るから「旱魃」が起こりやすくなる。今年の春から夏にかけて、ヨーロッパではその通りのことが起こったのである。アルプスの雪解け水が急増して北ヨーロッパは洪水となり、ポルトガルやスペインでは日照りのため森林火災が燃えひろがった。

 ここで、地球上に存在する「水」のことを考えてみよう。地球上の水の97%は海である。残りの2%は、グリーンランドや南極、そして高山の氷河に「氷」として固定されている。2%というと、ごくわずかな量のように聞こえるかもしれないが、南極大陸やグリーンランドの氷は海抜2キロの厚さに達する場所もある。これらを除いた残りの1%が、地表(地中と大気圏内)に存在する。この1%が地表を上下に循環しながら生命を支えている一方、洪水や嵐となって生命を脅かしているのである。太陽は海水の蒸発を促進する。水蒸気は、大気中を循環して雨や雪として地上にもどってくる。この巨大な循環に終わりはない。雨や雪として地上に落ちる水は平均で12日で入れ替わるという。この地球上の水量は、30億年前から変化していないと言われている。もしそれが事実ならば、地球温暖化はどういう効果を生むだろう? 温暖化すれば、これまで固定されていた極地と高山の氷が溶けてこの「水循環」のサイクルに加わる。温暖化はまた同時に、水の蒸発を促進するはずだ。すると、温暖化前よりも大気中の水量が増えるから、これが雨や雪となって地上に落ちる場合、以前よりも「頻繁化」したり「大量化」することになるだろう。つまり一言でいえば、温暖化は地球上の水の循環の「速度」と「量」を増すのである。だから、年間に発生する台風やハリケーンの数は増え、あるいは大規模化する。

 地球政策研究所(Earth Policy Institute)のレスター・ブラウン氏は、この傾向を具体的な例で示したあと、次のように記している:
 
「暴風雨が発生頻度と破壊力の両方を増していることは明らかである。より強い暴風雨はより大きな被害を意味する。北半球で冬の暴風の発生頻度四半世紀足らずのあいだに2倍に増えたことは、それらの強度が増したことと相まって、暴風関連の被害額の急激な増加を導いている。
  この動向が21世紀にどう展開するかは、現時点ではだれにもわからないが、もし私たちが従来通りの行動をとりつづけ、二酸化炭素濃度が上昇しつづけるなら、将来の暴風雨の破壊力はおそらく今日とは比べものにならないほど大きくなるだろう。今日の暴風雨の破壊力が少し以前のそれよりもはるかに大きくなっているのと同じように。人間活動に起因するこれらの破壊的な大災害に対処するためのコストが、一部の国々の社会・経済を圧倒して、それらの経済衰退を導くおそれがある」(『エコ・エコノミー』、p. 51)

谷口 雅宣

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