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2005年8月17日

『亡国のイージス』

 映画『亡国のイージス』を見た。購読している産経新聞が推薦していたからだ。しかし、120万部も売れているという原作は読んでいなかったから、内容については「自衛隊のイージス艦が叛乱を起す話」程度の知識しかなかった。それで、感想を結論的に言ってしまうと「映画としては失敗ではないか」ということだ。ほとんどの人は原作を読んでから映画館へ行くのだろうが、私は映画だけを見て、「何がどうなってこんなことになるのか」がほとんど理解できなかった。だから、映画館を出てからも周囲いっぱいの「?」マークを眺めていたという次第である。かつて『ザ・ラスト・サムライ』を見たときは、その壮絶なエンディングの伝えるメッセージをかなり批判的に捉えたが、映画の言っていることは比較的よく分かった。しかし今回は、「この映画、何を言いたいの?」という感想だった。

 まぁ、これだけの感想では、情熱をもって制作した数多くの人々に申し訳ないので、何が不満なのかを少し書かせてもらおう。最大の不満は、「リアリティーがない」ということである。もちろん映像は実写や精巧なセットを使っているから、いわゆる“リアル”ではある。しかし、ストーリー展開が速すぎるためか、あるいは説明不足(結局同じことだが)なのか、登場人物が何を考え、何を感じているのかがサッパリ分からない。自衛隊ならば、国民の生命と財産を護ることが第一任務であるのに、それを敢えて放棄し、逆に国籍不明の外国人と結託してテロを画策するのである。それならば「なぜそうするのか?」の説明が必要である。が、「ある防衛大学生の論文」に同調したとか、日本社会に愛想をつかせたとか、防衛庁内部の問題に嫌気が差したとか……そんないいかげんな理由で最新鋭護衛艦を乗っ取られるのではタマラナイ。もちろん、原作にはもっといろいろ書き込んであるのだろう。しかし、映画ではこの「動機」の部分がほとんど描かれていない。いきなり、乗っ取り事件が始まるのである。

 動機が不明なのは副艦長に同調した叛乱グループだけでなく、国籍不明(北朝鮮のようだが)の東洋人グループの目的もよく分からない。乗っ取った艦を東京湾内に進入させて、大量破壊兵器で市民を殺戮すると脅しながら、その脅しの目的がさっぱり不明である。いや、ストーリー上は箇条書きの要求が出てくるのだが、その要求のいちいちが、乗っ取り犯にとってなぜ利益になるのかが全然分からない。だから、“脅し”自体にもリアリティーが出てこないのである。私にとって一番理解できたのは、国家安全保障会議(?)の中のやりとりだけである。あそこで首相や大臣が何を考え、何をしようとしているかは比較的理解できた。が、叛乱軍と外国勢力との結びつきは“あり得ない”と感じられた。映画は、その説明をすっ飛ばしているか、あるいは描いてもいいかげんである。そして結局、印象に残っているのは、キッタハッタの大立ち回りのような艦内での戦闘シーンである。これでは、ハリウッド映画とどこが違うというのだろうか。

 ところで、映画鑑賞後、頭の中の「?」のいくつかでも解消しようと思ってプログラムを買った(1000円もした!)。そして中身を読んでから、私が上のような不満をもった理由がいくぶんか理解できた。私は、産経新聞が力を入れて推薦するのだから、この映画は、「国家」とか「国防」についてきちんとした主張をもっているのかと期待していたのだ。しかし、原作はともかく、この映画はそういう「思想性」を極力排除して作ったものだというのである。防衛庁情報局内事本部長の役をした佐藤浩市氏が、その間の事情をインタビューの中で次のように語っている:

「思想的背景の部分もおおいにある物語ですから、それが前面に出てしまって、複雑に見えてしまうと、お客さんがそこに引っ掛かっちゃうんじゃないか、ということですね。大切なことは、この映画はあくまで、特定の層を狙わない、老若男女幅広い層に観ていただける映画ということで、受け止め方、感じ方は様々でいいんです。あまりに特異な部分はできるだけ排除して、幅広い方々に理解して、考えてもらえるようにするにはどう演じたらいいのか、ということを阪本監督とも話をしました」

 原作の“特異”な部分をできるだけ排除して、誰にでも受け入れられるような作品にした--こういう作り方がハリウッド映画とどう違うのだろう? 所詮、映画は大衆エンターテイメントということか。最後まで疑問の残る映画だった。

谷口 雅宣


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