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2005年8月12日

アラスカの氷河

 ニューヨークから成田へ帰るJAL005便の機内から、何度も窓外を見た。JFK空港を現地の午後2時ごろに発つ便で、約12時間飛んで成田着は翌日の夕方である。普通に考えれば、窓外は時間の経過とともに暗くなるはずだが、ついに暗くならなかった。その理由は、搭乗機はカナダのハドソン湾沿いにオンタリオ州、マニトバ州、北西地方からアメリカのアラスカ州の上空へ至り、太平洋はアリューシャン列島上空を飛んで日本へ向う北回り線だったからだ。いわゆる“白夜”の中を飛んでいたのだ。空がよく晴れていたので、通過したカナダの各州の地形がよく見えた。この地方はほとんど山がなく、延々と湖沼地帯が続いている。大小さまざまな形の湖沼が、地面にコインを敷き詰めたように一面に広がっている景色を見て、私は釧路の根釧台地を思い出していた。もちろん、広さはその数百倍にもなるのだろう。

 もう一つ考えたことがある。それは、この湖沼地帯の海抜のことである。一見した感じでは、海抜があまり高くない平原に無数の湖沼がある。東京へ帰ってから調べてみると、オンタリオ州の最高地点は693メートル、マニトバ州の最高地点は832メートル、そして広大な北西地方は、西側に山脈が走っているから2,773メートルだった。地球温暖化は極地に近い地方で深刻だと言われているから、北極の氷が溶け出すことで被害を受けるのは、南太平洋の島だけでなく、この大湖沼地帯も含まれるのでは……そういう憶測が頭の隅を走ったのである。アラスカ上空に入ってしばらくすると、客室乗務員が声をかけてくれた。北アメリカの最高峰、マッキンレー山(6,194m)が見えるというのである。銀白色の山脈が続いていて、遠方に白い山が見える。少し富士山に似ていると思った。それらの山々の谷間に氷河がくっきりと見えた。しかし、それが凍結した氷なのか、それとも氷の浮いた川なのかは私の目には判別できなかった。この時も、私は温暖化のことを考えていた。アラスカは特に、その度合いが激しいと聞いていたからだ。

 7月16日号の『NewScientist』誌が、アラスカの氷河の退縮の様子を一目で教えてくれる見事な写真を掲載している。ここでご覧に入れられないのが残念だ。現在の氷河の様子は、写真を撮ればすぐ分かるが、過去との比較ができなければ、温暖化で氷河が退縮することの意味を充分には理解できない。同誌に取り上げられた写真では、巨大な霜柱が密集したような山間の平原の先に、雪を頂いた山が見える。近景は凍てつい岩だ。ただしこれは白黒写真で、その下に、まったく同じ角度から同じ山を撮ったカラー写真が並べてある。が、ここでは巨大霜柱の平原の代わりに、山間には青い水を満々と湛えた湖がある。近景の岩は見えず、同じ場所に緑の木が生い茂っている。写真説明には、「氷河湾のクイーン入り江にあるキャロル氷河の1906年と2004年の比較」とある。

 記事によると約100年前、ジョン・ムーア(John Muir)という人のグループが、アラスカの氷河の写真を1600枚以上撮り続けていたという。そこで最近、ブルース・モルニア(Bruce Molnia)という人がチームを組んで、ムーア氏の撮った白黒写真をもとに、同じ場所をカラー写真で撮る仕事を始めたという。一世紀前の写真を携えてアラスカ各地へ行き、かつての撮影場所を特定できたものが200枚以上あったという。そういう調査によって判明したことは、アラスカの海抜1500メートル以下の高さにある2000以上の氷河では、その99%が後退しているということだ。「後退」とは、氷河の一部が溶けて湖や川となり、年中凍っている部分が海抜の上の方へ退縮するという意味だ。溶けた氷は当然、川や地中を経由して海へと流れ込む。アラスカでは過去60~70年のうちに、気温が2~3℃上がっている。

 新旧の比較はできないが、アメリカ政府の地質学研究所のウェッブサイトを見ると、最近カラー撮影したアラスカの氷河の様子が眺められる。「暑中の涼」を得るためだけでなく、温暖化の実情を見る意味でも一見に値すると思う。

谷口 雅宣


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コメント

倉山さん、

 私も今回、はじめてアラスカの氷河の写真を見ました。「舌を出した」という表現はピッタリですね。日本では見られない景色も、インターネットなら見れる時代になりましたね。

投稿: 谷口 | 2005年8月14日 16:43

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