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2005年7月19日

脱化石燃料に“全力投球”を

 本欄では、何回か石油の値段と関連してエネルギー問題を取り上げてきた。もちろん、私はこの問題の専門家ではないから、毎日変わるエネルギー関連のデータなど入手できないし、ましてやそれの分析などは不可能である。ただ、化石燃料を主たるエネルギー源とする20世紀の方式を継続することは、地球温暖化を深刻化させる人類の自殺行為であるとの認識は正しいし、その認識は世界の趨勢となっていると思う。問題は、化石燃料から何へ移行し、その移行の緊急性はどれほどかという点であり、これに関しては様々な考え方がある。アメリカは京都議定書を拒否したにもかかわらず、最近になって「原発増設によって温暖化を防ごう」などと言い出した。日本政府は、昔からそういう考えだ。しかし私は、原発の政治的リスク(北朝鮮やテロを思い出してほしい)と、環境に対するリスクの両面から、この考えには否定的である。その代わりに、再生可能の自然エネルギー(風力、太陽光、波力、潮力、地熱等)の利用に、官民一体で全力投球すべきと考えている。

 なぜ「全力投球」かの理由の一つに、石油生産のピークがもうそこまで来ているとの認識がある。これは、一部の専門家が予測していることだが、まだ国際的な合意にいたっていない。石油の生産量は前世紀来、ずっと“右肩上がり”に上昇してきているが、ここ数年、その上昇ペースが芳しくない。それどころか、世界の多くの油田では前年より生産量が落ちるという現象が起こっている。その中で、いわゆる"BRICs"と呼ばれるブラジル、ロシア、インド、中国等の国の経済が毎年のように2桁に迫る成長を続けているのである。世界全体の石油生産量が前年より減少すれば、それは「石油ピーク」の到来だ。それ以降は、生産量は減り続けるのである。これは、すべての鉱物資源に共通している原則なのだ。そうすると、その後の石油利用は「他の誰かの利用分を奪う」ことになる。現在のように、全世界が石油資源に依存している状況では、個人と個人の奪い合いではすまされず、国家間の石油の“奪い合い時代”に突入する。過去の多くの国際紛争や戦争が、資源の奪い合いから始まっている。そういう時代に突入しない前に、エネルギー利用方式の抜本的変更を試みるのが、国家や国際社会の責任ある立場の人々の義務だと私は思うのである。

 ここで、最近出会った興味ある情報を紹介しよう。7月19日付の『産経新聞』は、ロンドン発の共同電としてOPEC(石油輸出国機構)が18日の月報で、来年は世界の石油需要の伸びが鈍化して、今年より1.85%増にとどまるとの見通しを出した、と伝えている。今年は、昨年より1.98%増になると見込まれているから、それよりは“鈍化”するとの予測である。理由は、「高止まりしている原油価格を背景に、中国をはじめとするアジア諸国を中心に世界的に需要が鈍化。石油に代わる代替エネルギーの開発や、ハイブリッド車の利用増などが需要抑制につながる」というもの。この“予測”のメッセージを正しく読むのは、むずかしい。なぜなら、これを出したのは経済学者や研究者ではなく、はたまた企業の予測でもない。当の石油カルテルが出したものだから、そこには“政策的配慮”混じっていると考えるべきだろう。OPEC側は「急激な増産はする必要がない」と言っていることは確かだろう。問題は「なぜそう言うか」である。

 石油連盟の渡文明会長(新日本石油会長)は7月13日の記者会見で、原油価格が落ち着きを取り戻すには「OPECの生産能力や米国の精製能力を拡大する必要がある」と強調した(7月14日『産経』)。そのすぐ後に、OPECは「そんな必要はない」という“予測”を発表したのである。ユーザー側は、当然「安い石油」を望む。生産者側はその逆だ。つまり、OPECは、せっかく史上最高の1バレル60ドル時代に入った矢先に、石油の値段が下がることにメリットを感じていない。だから「中国やアジア諸国の石油需要が鈍化する」などという理由をつけるのだろう。実質的には中国の国営企業である中国海洋石油(CNOOC)が、アメリカの石油会社ユノカルを買収しようとしていることは、読者も知っての通りだ。そのほか最近、中国要人が産油国めぐりをしていることが、「中国の石油需要の鈍化」と言えるのかどうか、賢明な読者には説明の必要はないだろう。

 代替エネルギーの開発に関連して、『朝日新聞』は19日の1面トップで、植物性エタノールとガソリンとの混合燃料の流通が08年から始まる、と報じた。温暖化防止への植物性エタノールの効用については、5月26日の本欄ですでに書いた。政府は、これを当初は「7%」だけガソリンに混合して販売する考えのようだ。エタノール車が走りだしてすでに30年の実績のあるブラジルでは、「30%」とか「50%」のものが走っているというのに、この数字はどうしたものだろう。こういうところが「全力投球」とは言えないのである。

谷口 雅宣

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コメント

倉山さん、

 エネルギー問題は、複雑です。私の見解は、あくまでも「素人の憶測」として理解してください。

 しかし、お役に立てているようで嬉しいです。

投稿: 谷口 | 2005年7月20日 14:15

谷口 雅宣 先生

 相愛会部の山岡睦治と申します。
 今年5月の相愛会・栄える会合同全国大会で、先生が石油生産のピーク説のうち、2007年説を紹介されたのは非常にショックを受けました。「あと2年しかない」と。ですから、先生のおっしゃるように日本は早く脱化石燃料に“全力投球”をすべきであると思います。
 ところで、日本がエタノールを7% 混合して販売しようとするのは、日本で販売されている車がそれ以上の混合比に対応していないということだと思います。エタノールの混合比を格段にあげるためには、先の全国大会のシンポジウムで高崎・ルイス・アントニオさんが説明していた「トータルフレックス」という、どんな混合比でも走る車を日本が造る必要があると思われます。
 良いニュースとしては、6月12日の『日本経済新聞』朝刊には、トヨタがそのアンコール、ガソリン併用車を開発して早ければ来年後半にも投入する、という記事がありました。その車の投入先はブラジルでありますが、需要が高まれば日本市場にも当然投入可能であると思われます。

山岡睦治 拝

投稿: 山岡 睦治 | 2005年7月20日 20:48

山岡さん、

 貴重な情報、ありがとうございます。

 日本の自動車メーカーの販売戦略が、大きな影響力をもっていると思います。ホンダは(今日の新聞によると)“燃費向上路線”を採ると発表しましたが、トヨタは、どうも“2の足”を踏んでいるように感じます。

投稿: 谷口 | 2005年7月21日 10:15

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