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2005年7月29日

テロとの“戦争”は終った?

 最近の世の中の動きは速すぎて、なかなかついて行けないのだが、ロンドンでの同時爆弾テロが起こった後あたりから、アメリカ大統領が「テロとの戦争」(war on terror)という言葉を使わなくなったそうだ。それに伴いブッシュ政権内部、とりわけ国防総省の幹部も「テロとの戦争」とは別の言葉を使うようになったらしい。7月27日付の『ヘラルド朝日』紙が伝えている。

 例えば、ラムズフェルド国防長官は22日、メリーランド州アナポリスで海軍関係者に対して行った演説で、現在アメリカが行っている武力行使を「自由の敵、文明の敵に対する地球規模の闘争」(global struggle against the enemies of freedom, the enemies of civilization)と呼んだそうだ。また、マイヤーズ参謀総長も最近の記者会見で「暴力的過激主義に対する闘争」(a global struggle against violent extremism)という表現を使って、アルカイーダ等の過激派との関係を形容したという。真意を聞かれて、同参謀総長はこう答えた--「私は前にも『テロとの戦争』という言葉を使うことに反対した。その表現では、問題は軍人が解決することだと考えてしまう。確かに今は軍事が先行しているが、将来は国家のもつすべての手段、国際社会の各国がもつすべての手段を使うことが要求されるだろう。軍事的というよりは、もっと外交的、経済的、政治的になる」。

 私は6月1日の本欄で「戦争(war)」という言葉の意味について書いたが、それは軍事的手段のみを使うのではなく、外交や経済や教育などの総力を動員して敵を破ることだと思っていた。しかし、現在のアメリカの政権を担う人々はそう考えておらず、軍事的手段で政治目的を達成するもののみを「戦争」と呼んでいるようだ。これは、もしかしたら新しい見解ではないかと思う。まぁ、それはよしとしても、では、9・11以降行われてきた「テロとの戦争」は、一体いつ、どちらが買ったのだろうか? 戦争であるならば、勝者と敗者がいるか、あるいは引き分けたということになる。テロとの戦争によりテロが活発になれば、テロが勝者である。テロが少なくなれば、アメリカとその同盟国が勝者であり、テロの起こり方が変わらなければ、両者は引き分けだ。できるだけ客観的に考えてみると、私は「テロとの戦争」では、どうもアメリカと(日本を含む)同盟国が敗北したか、あるいは最高度にヒイキ目に見ても「引き分け」という所だと思う。

 その理由の一つには、アメリカが武力を先行させ2つの国の政権を引っくり返してしまったことが、イスラム諸国を主体とした多くの国々の国民の反感を誘い、テロリストを減らすのではなく、逆に増やしてしまったからではないか。そのことに気づいた米政権が、「戦争」(war)という刺激的な言葉を引っ込めて「闘争」(struggle)という、より広い、多義的な言葉を使うことにした--それが実情ではないかと思う。もちろん、用語の変更は政策の変更を背景にしているのだろう。そういう意味では、何でも“腕力”に物を言わせるかつての政策よりは、よい方向への転換だと思う。

 ところで、トム・ハイデン(Tom Hayden)というジャーナリストが、7月28日付のブログの書き込みで、イラクの首相が米軍の早期撤退を求めたと伝えていた。彼によると、この発言は、イラク議会の議員82人が約1ヶ月前に米軍撤退を求めたことに続くという。この議員達の要求のことを、マスメディアはあまり報道しなかったらしい。しかし今回のイラク首相の発言は、ラムズフェルド国防長官の隣に立っていた時だったから、メディアは報道せざるを得なかったという。この話の真偽のほどは明らかでないが、私の見渡したところ、イラク首相の米軍撤退要求のニュースは、どこにも見当たらなかった。しかし、アメリカが過去の“腕力一徹”の方針から「撤退」を視野に入れた“多面闘争”へ方針を切り替えつつあるのは、事実のようだ。最近出た「8月15日までに憲法草案を確定せよ」とのイラク臨時政府への厳命も、そのことを暗示している。

谷口 雅宣

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コメント

>>何でも“腕力”に物を言わせるかつての政策よりは、よい方向への転換だと思う

これは朗報ですね!マスメディアの報道で現実の動きを追っていると、ついつい暗い方面に目が奪われがちになるので、明るい方面を見なければという思いを新たにさせていただきました。ありがとうございました。

投稿: 山中 | 2005年8月 2日 09:34

山中さん、

  アメリカの“戦争”の件ですが、今日放映されたABCニュースでは、米国連大使にジョン・ボルトン氏を任命したブッシュ大統領が、「特に戦争中に、このような重要な任務を空席にしておけない」などと言ってました。ということは、大統領自身はまだ「戦争」をしているとの認識なのかもしれません。残念ながら……。

投稿: 谷口 | 2005年8月 2日 10:42

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