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2005年6月20日

自分で自分を助ける医療

人間の卵子や受精卵を使ってクローン胚やES細胞(胚性幹細胞)を作り、そこから神経細胞を分化させてアルツハイマー病、パーキンソン病、ALSのような脳の病気治療に役立てる方法が期待されている。このことは本欄でも何回か取り上げ、宗教的には「霊魂」の問題が無視されているので好ましくないことを述べた。また倫理的には、「他人の生命を利用する」という問題がある。これに関しては、拙著『今こそ自然から学ぼう』(2002年刊)でも、人間の体内に予め存在する補修用の幹細胞(成人幹細胞)を使った医療の方が、宗教的にも倫理的にも好ましいことを書いた。再生医療の分野では、この成人幹細胞の研究も進んでいて、このほど期待がもてる成果が発表されたようだ。それは、「自分の脳内の幹細胞を使って自分を治療する」という方法である。

アメリカの科学専門誌『Proceedings of the National Academy of Sciences』(アメリカ科学協会紀要)の6月13日号に掲載された研究によると、マウスの脳から取り出した幹細胞を培養して、そこから神経細胞を分化することが可能となったという。フロリダ州のマックナイト脳研究所のデニス・スタインドラー博士(Dennis Steindler)らのグループが行ったもので、同博士によると、取り出された幹細胞は神経細胞の元となる神経幹細胞ではなく「いろいろな幹細胞の大もととなる幹細胞」だという。これを研究室のガラス器の中で培養しながら、カメラで5分おきに30時間撮影をつづけた結果、生きた幹細胞から神経細胞が成長していく姿が確認されたという。グループの一員である別の研究者の言によると、「我々は基本的にこの細胞を取り出し、必要になるまで凍結保存し、解凍させて細胞再生の過程を開始させれば、新しい神経細胞がゴマンと生まれる」のだそうだ。もちろん、マウスでの成功がそのまま人間での成功につながるわけではないだろうが、人間への応用が完成すれば、クローン胚の作成やES細胞よりも安全な治療法になるだろう。なぜなら、この方法は自分の細胞を殖やして自分の脳に入れるのだから、拒絶反応の問題が生じないと思われるからだ。

また、今日(6月20日)の『朝日新聞』夕刊によると、ニューヨーク大学の研究チームは、アルツハイマー病の発症を9~15年前に予測できる診断方法を開発したという。脳の「海馬」と呼ばれる部分でのブドウ糖の消費状況を画像で解析することにより、アルツハイマー病は85%、軽度認識障害は71%の確率で予測できるそうだ。だから、上記の幹細胞培養の方法と併用すれば、発症危険度の高い人は、健康なときに自分の幹細胞を抽出し冷凍保存しておき、発症後にそれを解凍・培養して神経細胞を増殖させ、自らの治療に使うことができるかもしれない。まぁ、これはあくまで素人考えだが、とにかく現代の高度医療においては一定の倫理基準を早く確立しておくことが重要だと思う。そうすれば、その基準に合致しない技術は諦めて、合致する技術の研究開発に総力を挙げることで、科学技術と倫理性とが両立するような正しい医療が発達する道があるのではないだろうか。

ところで、上記の『朝日』には、同じアルツハイマー病に関して、野菜ジュースや果物ジュースが大きな予防効果をもつとの研究発表も報じられている。これらのジュースを週に最低3回飲む人は、週1回未満の人に比べてアルツハイマー病の発症リスクが75%も少ないのだそうだ。ビタミン剤や栄養補助剤では効果がなく、ジュースもしくは、野菜や果物そのものが体にいいのである。読者の皆さん、長生きしたければ肉食を減らし、野菜と果物をどんどん食べましょう!

谷口 雅宣

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コメント

雅宣先生

6月25日のトロント母親教室(テーマ:生命の尊さ)は、「今こそ自然から学ぼう」とこの記事をテキストに致しました。同日の朝日に「クローン・遺伝子組み換え、ヤギと豚の生産に成功」と言うニュースがあり、時節に合った学習ができました。

「小閑雑感Part4」と「日々の祈り」が単行本として出版される日を心待ちにしています。

因みに、2ヶ月前から毎朝、ニンジン・りんご・大根・セロリのミックスジュースを飲み始めましたので、この記事の最後の部分は正に朗報でした。<笑>

渕上幸江

投稿: 渕上幸江 | 2005年6月27日 06:09

渕上さん、

 お久しぶりです。

 日本は梅雨明けしたみたいで、暑い毎日が始まっています。カナダに行きたいです!

 「日々の祈り」は、機関誌に載ると思います。
今後とも、よろしく……。
 

投稿: 谷口 | 2005年6月27日 12:28

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受信: 2005年7月11日 12:18

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