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2005年6月14日

新法王の先取点

4月22日の本欄で新ローマ法王、ベネディクト16世について「カトリック教会の伝統的な教えに忠実」という見方を紹介したが、あれから約2ヵ月たって新法王の“カラー”が鮮明に出てきたようだ。生殖補助医療の分野で伝統主義を大いに推進し、イタリア政治に影響を与えているのだ。6月14日付の『ヘラルド朝日』紙が伝えている。

イタリアの現在の法律は、人工受精で作られる受精卵の数を3個までに限定し、精子や卵子の提供を禁じているうえ、ヒト胚(受精卵)を使う研究も許していない。これでは治療や科学の発達がおぼつかないと法改正を求める勢力に押され、イタリアでは法改正の是非を問う国民投票がこの12~13日にあった。それに対して、新法王率いるカトリック教会は猛然と改正反対の運動を起こし、国民投票には参加しないようにイタリア国民に呼びかけたという。イタリアの法律によると、国民投票が実施されても、投票者数が選挙権者数の50%を越えなければ票は数えられず、選挙は事実上無効となる。そして、日曜日(12日)の1日のうちに投票した人は、全選挙権者のわずか18.7%であったという。これに月曜日半日に投じられる票を加えても50%を上回る可能性はないとして、同国ではバチカンの勝利を疑う人は少ないのだそうだ。

イタリア国民は、かつて2回にわたりカトリック教会の意思に反対した。最初は1974年に離婚を禁じさせなかった。2回目は1981年で、前法王、ヨハネ・パウロ2世の強力な運動にもかかわらず、人工妊娠中絶の禁止に反対した。が今回は、まずは教会側が勝利したといえるだろう。

ところで日本には、生殖補助医療を規制する法律は存在しない。だから、不妊治療の現場では受精卵は1度の3個以上作られ“余剰胚”として凍結保存される。ヒト胚を使うES細胞の研究には、それら“余剰胚”のうち廃棄の決定をされたものが使用されている。精子の提供は、かなり前から普通に行われている。そして、これらの動きの主導権はもっぱら医師や研究者が握っていて、宗教の側からの発言は少なく、あってもあまり重視されない。そういう社会環境にいる者から見ると、イタリアのように白黒がハッキリする制度は、何となく羨ましいのである。

谷口 雅宣

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