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2005年6月 2日

“悪魔化”は戦争への道

 戦争とは一国が“身も心も”捧げて行う大事業だ、と書いた。だから、戦争が偶然起こったり、誰も予想しない時に起こったり、石を蹴つまずくように起こったりすることはない。ある小競り合いが戦争に発展することはあるが、その小競り合いが生じるまでに、両国間には領土紛争や、宗教対立や、敵視政策や、経済封鎖や、移民問題や、人種差別問題などの「敵対関係」が必ず存在する。また、両国民の間には心理的、思想的に“敵”を作るための「悪魔化(demonization)」が着々と進められるのが普通だ。日本も真珠湾攻撃の前までに、「日米必戦論」が人気を博し、「鬼畜米英」の語が新聞紙上で躍っていた。だから、一国の指導者が特定の国を名指しして「悪の枢軸」と呼んだり、「圧政者」という言葉を使うことは危険信号の点滅と思わねばならない。コトバが、現象界を作りつつあるのだ。

 今、アメリカでは文化・娯楽の面でも北朝鮮の「悪魔化」が進行中だ、と6月1日付の『ヘラルド朝日』紙が伝えている。映画の世界では、すでに「007 シリーズ」が最新作『ダイ・アナザーデイ』(2003年)で北朝鮮の恐ろしさを強調したが、『The Pacifier』『Dragon Squad』『Tides of War』などでも、北朝鮮を“冷血な攻撃者”として描いており、テレビゲームの世界では、北朝鮮に実在する核再処理施設をゲーム者に破壊させるものがあるという。テレビドラマの中には、長らく“悪役”として使ってきたサダム・フセイン氏に代わって最近、キム・ジョンイル氏を登場させ、ドラマの中で大量破壊兵器調査官のハンス・ブリックス氏(実在の人物)をサメの餌食にするシーンを放映したそうだ。

 同紙は、メリーランド大学の政治心理学者、スティーブン・カル教授(Steven Kull)の言葉を引用する--人類史を通じて、国の指導者たちは敵を脅かすために積極的に悪魔化を行ってきた。こういう行動が危険なのは、その過程が軍事衝突へつながる文化を作り出すからである。悪魔化は、自分と同類の人間を攻撃することに対する心理的抑制のタガを緩める。それは国民の心を戦争へ、戦闘へと向かわせる。相手に対する同悲同慈の思いを弱めるのである。

 韓国にとって、北朝鮮は「同胞」である。家族や親戚を北にもつ韓国人は数多い。現政権の“太陽政策”により、北との経済関係も緊密化しつつある。加えて首都・ソウルは、北朝鮮からの砲撃が直接届く距離にある。それにミサイルの射程距離を考えれば、韓国の国民は全員が北朝鮮の“人質”にされていると言っても過言ではない。韓国人の北に対する態度は、だから当然、アメリカ国民とは違ってくる。そんな時、日本の外務省高官が「アメリカは韓国を信用していない」などと言うことが、外交的に好ましいはずがないのである。日本は、アメリカの「悪魔化」の流れに乗っているだけでは、何事も解決できないどころか、有効な外交など展開できないと思う。「コトバが人生をつくる」との立場から言えば、悪魔化は戦争への道だからだ。

谷口 雅宣

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