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2005年5月24日

『秘境』脱稿しました

 小説『秘境』をやっと脱稿した。ちょうど2年前の今ごろに無謀にも開始した連載が、当初予定していた短篇もしくは中篇程度の長さをはるかに超過して、長編小説になってしまった。素人作家の気まぐれに長々と付き合ってくださった読者の皆さんには、何と言って感謝すればよいか分からない。本当に有難うございました。

 生長の家の講習会で4月半ばに山形県村山市へ行ったとき、小説の舞台に同県の鶴岡を使ったためだろうが、この「秘境」に関する質問がいくつか出た。関心をもって読んでくださる人がいると知って嬉しかった。その中で、私がどういう意図をもってこの小説を書いているかと問われたので、何か答えたが、正確にどう言ったのか覚えていないので、ここで少し補足してみよう。--この小説は、自然と人間とがどう付き合っていくことがこれからの時代に必要であるか、を自分自身に問うつもりで書いた。人間は自然を愛していながら、同時に自然を破壊している。このきわめて矛盾した生き方は、産業革命以降に顕著になったが、それ以前になかったわけではなく、農業の発明以来、延々と続いているのである。そして地球環境問題が深刻化している現在、この傾向は強まりこそすれ、決して弱まることはない。その中で、日本人は自然との一体感を大切にしてきたというのは事実であるが、しかし、戦前戦後の近代化と工業化の中で、欧米諸国に負けずに自然破壊を続けていることも事実である。その最も大きな理由は何か、ということを知りたかった。

「そんなことが小説を書いて分かるのか?」とも思うが、この『秘境』ではなく『神を演じる人々』(2003年、日本教文社刊)に収録されている「再生」という短篇の中で取り上げた「ヘビ」がいなくなってしまったことによるのではないか、と思う。この短篇に出てくるヘビは、「畏れるもの」のメタフォーである。人間は神を畏れなくなり、自然現象も恐れなくなり、今や遺伝的原因を改変して自分の運命をも掌中に握ろうとしている。それが人間の幸福のためだから……と考えながら、現代人が古代人や中世の人々と比べて幸福であるかどうかは、実はきわめて疑わしい。そして、最も重大なことは、このような人間の活動が今、地球の生態系と物理バランスを撹乱して、古代人や中世・近代の人々がかつて経験しなかった種類の一大カタストロフィーを招くことが予見されていることだ。

 はっきり言って、私は現代に“宗教”が復権しなければいけないと思う。ただし、その「宗教」とは現在、戦争やテロの正当化に使われているような融通のきかない、狭量で独善的な教義をもつものではなく、自然界の営みの背後に、そして全ての宗教の教えの背後に、絶対的価値をもった存在があることを認め、その要請に人間が自ら従うことを教えるものでなければならない、と思う。人間が自己目的を追求するのではなく、人間が自己の生きる目的を発見するよう導くものが必要と思う。

 いやはや……少し力コブを入れて書いてしまったが、小説はあまり堅苦しくならずに、楽しんで読んでいただければ十分です。

谷口 雅宣
 

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コメント

合掌。最終回と書いてありましたので、どういう展開になるのか楽しみに読ませて頂きました。豊かな自然の一部は人間にとっては利用価値がほとんど無いものでも、他の生物には多大な価値があるということが、自然界は人間だけのものではないことを示していると思います。

人間も他の生物と同様、肉体的には自然界に属するものであると思うのですが、動物が甘んじているような自然界の不快を知恵によって変えていくことができる。その結果、属している世界を変えてしまう。人間独自のこの能力を今後どのように使用していくかが、大きな課題だと思います。

それと同時に、「人間だけが楽しめる形に」自然を変える能力が、人間は自然界の一部ではなくそれを支配する能力と考えてしまうような考え方に人の思想が変形していかないためにも、もっと自然を学び、自然に接しながら、自然界も人間も本来は一つにつながっている別々の存在ではないことを学ぶ機会を増やしていくべきだと思います。

川上真理雄

投稿: Mario | 2005年5月25日 09:00

≪はっきり言って・・・・・≫以下は、まさに万教帰一の宗教観が求められていることというように私は理解しました。分離ではなく融合へ導く宗教観(共通分母を認め合う大切さ=清超先生「智慧と愛のメッセージ」から引用)が求められているのだと思います。

投稿: 早勢正嗣 | 2005年5月25日 20:15

川上さん、

 自然と人間との関係は、なかなか深く、難しいものと感じています。

 「秘境」を愛読いただいて、ありがとうございました。

投稿: 谷口 | 2005年5月26日 14:37

早勢さん、

 お久しぶりです。コメントありがとうございます。

 「万教帰一」という考え方は、世界的にはなかなか浸透していないようですね。

投稿: 谷口 | 2005年5月26日 14:39

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