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2005年5月29日

暴力は社会の伝染病

5月13日の本欄で、「悪いニュースを集める」というメディアの活動が集合的に作用すると、意図しないで大規模な事実の歪曲が起こり、テロ活動の目的に協力することもありえる、と警告を発した。しかし、そういう事実誤認や社会不安の醸成が、実際の暴力事件の発生につながるかどうかまで考えるに至らなかった。読者は、どう思うだろうか? メディアがテロを含む悪いニュースを流し続けることで、実際に暴力事件が起こるのだろうか? もし、そういう因果関係が証明されたならば、メディアの社会責任は厳しく問われなければならないだろう。

この大いなる疑問に一部答えるような研究結果が、アメリカの科学誌『Science』の5月27日号に発表された。ハーバード大学医学部のフェルトン・アールズ教授(Felton Earls)らの研究によると、銃を使った暴力事件を目撃したティーンエージャーは、そうでない同年代の少年に比べ、その後2年間に自らが深刻な暴力事件を起す確率が2倍に増えるという。この研究は、シカゴ近郊の78箇所に住む12歳から15歳までの少年少女1500人以上に、5年間かけてインタビューした結果をまとめたもの。統計的処理により、実際に本人が銃劇事件を目撃したグループとそうでないグループに分けて、その後2年間の行動を調べてみると、「目撃した少年は、自分自身が暴力行為を行う可能性が2~3倍増える」ことが分かったという。したがって、暴力というものは“社会的伝染病”だとアールズ博士らは言っている。

銃撃事件を実際に身近で目撃することと、テレビ画面を通して戦争や暴力に関するニュースを視聴することとは、その深刻度に於いてもちろん差がある。しかし、「社会とは何か」について乏しい知識しかもたないティーンエージャーにとっては、“社会の窓”とも言えるテレビニュースが伝えるリアリティー(現実感)は決して無視できないものだ。ジョンズ・ホプキンス大学のダニエル・ウェブスター教授(Daniel Webster)によると、身近に銃撃事件などを体験した人は過剰な警戒心をもつようになるので、意味が不明確な社会的刺激--例えば、混雑したパーティーの中で誰かがぶつかってきた時--に対して過剰に反応し、それを“敵意”と捉えるかもしれない。そこから却って暴力が生じる可能性が増えると考えられる、としている。

すでに心理学の分野では、家庭内で虐待された子供が学校や社会で暴力事件を起すという関係がしばしば指摘されているが、これらの科学的知見は「類は類をもって集まる」という諺にも合致し、生長の家でいう「親和の法則」を見事に証明していると思う。だから、この暴力という“社会的伝染病”を終息させるために、我々は人生の光明面を見る「日時計主義」の運動をもっと盛んにし、どんどん社会に広げていかなければならないのである。マスメディアで働く皆さんは、この科学的知見を尊重し、どうか立派に社会的責任を果たしてもらいたい。

谷口 雅宣

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