カリフォルニアよ、どこへ行く?
5月3日の本欄で、アメリカ科学アカデミーがES細胞研究に関するガイドラインを策定したことに触れたが、7日の『朝日新聞』は、夕刊でES細胞を9割の確率で心臓の筋肉細胞に変化させることに日本の研究者が成功したことを伝えた。ただし、このES細胞はネズミのものだから、人間のES細胞から心筋細胞を豊富に分化させるまでには、もう少し時間がかかるだろう。とにかく、人間の受精卵から取り出したES細胞を治療目的に使おうという試みは、世界的に着々と進められている。
そんな所へ、カリフォルニア州でのES細胞研究の中心となる公的機関がサンフランシスコ市に置かれることが決まったというニュースを、アメリカの知人が教えてくれた。『ロサンゼルス・タイムズ』が7日付で伝えたもので、同市のほか首都サクラメント、サンディエゴ市などが誘致を競っていたが、1700万ドル(約18億円)をはたいたサンフランシスコに軍配が挙がったという。それだけの経済効果を同市は期待しているわけだ。
この機関は「カリフォルニア州立再生医療研究所」(California Institute of Regenerative Medicine)といい、昨年11月に行われたES細胞研究の是非を問う同州の住民投票の結果、設立が決まり、設置場所の選定作業が進んでいた。すでに本欄でも触れたように、ブッシュ大統領はES細胞の研究に厳しい枠をはめて、その枠内での研究のみに連邦政府の補助金の投入を認めてきた。しかし、これに不満を感じる研究者や患者は多く、特にハリウッドを抱えるカリフォルニア州では、州知事のシュワルツネッガー氏をはじめ、レーガン元大統領の夫人、俳優のマイケル・J・フォックス、クリストファー・リーブなどが再生医療の必要性を訴えたことが、ES細胞の研究にゴーサインを出す大きな力になったようだ。同研究所は今後10年にわたり、年間30億ドルの資金を州から得て研究活動を進めていくことになるから、カリフォルニア州がこれからのアメリカでのES細胞研究の中心となる可能性が大きい。
カリフォルニア州は、アメリカでは最も自由度の高い考え方の州で、代理母や卵子・受精卵の売買も行われている。今回の決定もそのような風土を背景に下されたわけだが、予想はしていたものの、私には残念で仕方がない。この州にいる生長の家の信徒はアメリカで最も多く、アメリカ全体を受け持つ合衆国伝道本部がここにある。またサンフランシスコは、私が学生時代に1年間いたオークランドの対岸にある。まだ産まれない人間の霊魂に肉体を与えることを拒否し、彼らから奪った肉体を利用して、すでに人生の大半を過ごした人間の肉体の修復や延命治療に使う社会が、この地で成立しようとしているのだ。
谷口 雅宣
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