文科省と経産省--未来図の違い
文部科学省の科学技術政策研究所が、今後30年の「技術予測調査」の結果を発表したそうだ。今日(5月14日)の『産経新聞』が1面トップで報じているが、これが『朝日』(5月4日)の伝えた経済産業省の「技術戦略マップ」(5月4日本欄参照)とどういう関係なのか、と考えてしまった。というのは、両者の間に結構な違いが見られるからだ。
経産省の予測ではES細胞を利用した臓器培養移植の実用化は2015年だが、文科省のそれでは2031年。経産省が2015年に予測する二酸化炭素の地中固定の実用化は、文科省の予測では2025年と悲観的だ。が逆に、経産省が20年後の2025年にも実現しナイとする立体映像テレビは、文科省の予測では2023年には「一般化する」というのである。まぁ、未来予測というのは「当らない」のが相場だろうが、両省が似たような技術を扱っていることを考えると、この10~15年の開きというのは何か別の意味があるような気がする。
誤解のないように付言すれば、この2つの予測は両省の職員だけで行ったのではなく、外部の専門家の意見をもとにしている。経産省の場合は「大学や企業などで最先端の研究をしている300人」の予想をもとにし、文科省のものは「専門家約2200人」へのアンケート調査による。両調査のもとになったサンプル数がずいぶん違う。また、「どの程度の専門家か」というサンプルの質の違いも気になるところだ。そこで経産省が“少数精鋭”のサンプルを使い、文科省が“平均的”サンプルから結論を得たと考えると、何となく両者の違いに納得がいく。“少数精鋭”の研究者や技術者は、自分の専門分野に関して、普通より大きな可能性を知っており、さらに「新技術を早く実現させたい」との希望をもっているだろうから、その希望的観測が予測に影響する。それに対し、“平均的”な研究者や技術者は新技術開発の可能性について“専門レベル”ではなく、“実用レベル”で考える傾向があるだろうから、一般的に保守的な予測をするのかもしれない。
私はそれに加えて、両省間に技術の“好み”の違いがあるような気がする。というのは、前回触れた経産省の“予測”は、「政府の研究開発予算を実現可能性の高い分野に集中投入する」ために作成したというのだから、それを知っている最先端の研究者たちは、調査に答える際に「自分の研究分野こそ可能性が大きい」と訴えたくなると思うのだ。そのバイアスが経産省の報告書作成の段階でどれだけ排除されたか定かでないが、結局、報告書の内容が補助金の行方を左右するのだから、省の“好み”がまったく含まれない内容であるとは考えられないのである。
……というような様々な憶測を加えて、私が両省の技術の“好み”を想像すると、以下のようになる。
経産省は、やはり企業サイドの監督官庁であるために、先端技術のもつ環境倫理や生命倫理の側面を考慮するよりは、産業育成や経済発展を重視する傾向があるから、ES細胞を利用した臓器培養移植、二酸化炭素の地中固定の実用化が「より早く来る」と予測している。これは、「より早く来てほしい」という意味にとらえていいだろう。これに比べ、文科省は「倫理」の問題とも関係が深いため、新技術の実用化にはより慎重なようだ。また、経産省の予測に比べ、地球環境への配慮を含んだ予測を出している。それは、2023年には水素を燃料とする自動車エンジンが開発されるとし、2031年には一人当たりのエネルギー消費量が半減すると予想している点だ。前者の予想はうなずけるが、後者はなぜそうなるのか、まったく不明である。これも「そうなってほしい」という同省の希望だと考えればいいのかもしれない。
谷口 雅宣
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