朝鮮半島は“キナ臭い”?
「世界情勢をどう見るかという判断には、国家間で相当違いがあるのだろうか?」--今朝(5月31日)の『ヘラルド朝日』紙の1面を見て、そう思った。日本の新聞は高速増殖原型炉「もんじゅ」をめぐる最高裁判決、フランスによるEU憲法否決、二子山親方の死去、東京都の浜渦副知事の辞任などの記事で埋まっていて、ヨーロッパはともかく、日本周辺では平和にものごとが進んでいるような印象を与える。しかし、ヘラルド紙(ニューヨーク・タイムズが発行する英字新聞と朝日新聞の英語版が合体したもの)の1面には、「北朝鮮をめぐる緊張が拡大(Tensions increase over North Korea)」「ブッシュ氏、北の孤立化を深める方針(Bush tries to deepen isolation of regime)」というあまり穏やかでない2本の見出しが踊っている。アメリカでは、北朝鮮との緊張が高まりつつあると認識しているが、北朝鮮の隣国である日本ではそう考えていないようなのである。
読者はご存知だろうか? アメリカが15機のF-117ステルス攻撃機「ナイトホーク」を朝鮮半島に送っていること、それに対して北朝鮮の国営放送は「これは危険な戦争準備だ」と言い、ライス国務長官のことを「虎の恐さを知らずに吠えつく犬だ」と非難したこと、これに先立ち、北朝鮮で9年間続いていたアメリカ兵の遺骨収集の活動をアメリカ国防省が突然中止したこと、ブッシュ大統領が27日に海軍士官学校で演説し「この新しい戦争の時代には、我々は国家でなく政権を狙い撃ちにすることができる。それは、テロリストや圧政者が、もはや罪のない国民の背後に隠れていることはできないという意味だ」と述べたこと、そして先週、北朝鮮の国営放送が「先制攻撃のオプションは、何もアメリカだけの選択肢ではない」と言ったこと……。
北朝鮮は“瀬戸際外交”が得意なことで有名だが、こういう事情を知ってみると、「どうしてどうしてアメリカも負けてはいない」という気がする。ポイントは「ステルス」という名を冠した飛行機だ。これは、敵のレーダーに補足されにくい特異な形状と外装、装備をもっていて、湾岸戦争で大活躍した。米国防省は最近、グァム島の基地にB-2ステルス爆撃機やF-15E戦闘機を「訓練のため」と称して派遣している。その数は飛行中隊(squadron)規模である。これらのステルス機が敵の懐深く入っていって、レーザー誘導爆弾で目標を破壊する映像を、我々はテレビでもよく見たと思う。B-2 ステルス爆撃機は、B-52 戦略爆撃機の後継機として開発され、遠くから攻撃できる。2003年のイラク攻撃の際、バグダッドから5500キロも離れたインド洋の島、ディエゴ・ガルシア島から発進しているから、グァム島から平壌(約3500キロ)を攻撃することは十分可能である。こういう最新鋭の攻撃機を朝鮮半島近辺まで移動しているわけだから、北朝鮮がピリピリするのも理解できるだろう。
では、その両国に挟まれた日本は今、何をどうやっているのだろうかと心配になる。今日(5月31日)の『朝日』によると、財務省の4月の貿易統計では、北朝鮮からのアサリの輸入は、3月に引き続き2ヶ月連続で「ゼロ」だったそうだ。船主責任保険加入や原産地表示の徹底をさせることで、一部で“経済制裁”に近い効果が出ていると考えられる。こうして静かに、目立たないようにやるのが日本政府の方針であるならば、日本のメディアもそれに協力して“きな臭い”ニュースの報道は控えている--そんな考えは穿ちすぎだろうか?
谷口 雅宣
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