« 中国経済の矛盾 | トップページ | 法王として飛ぶ? »

2005年4月21日

カイコの巨大な繭

長さ35センチの巨大な繭をカイコに作らせた人の話が、今日(4月21日)の『朝日新聞』に載っていた。エッと驚いた。またもや遺伝子操作の産物かと思ったら、さにあらず。ある特殊な条件に置かれると、そういう繭をつくるカイコが昔からいるというのだ。

カイコは蛾の幼虫で、成虫は正式には「カイコガ」という。人間がこれを飼って絹繊維を採ることは、4~5千年も前から行われてきて、かの『魏志倭人伝』にも養蚕の記述があるという。人間による“品種改良”が延々と行われてきたから、1個の繭から長さ1500メートルという驚異的な量の絹糸を生産できるようになった。が、その一方で、人間の手によらなければ繁殖できないものがほとんどという。これは、栽培種の農産物と似た状態だ。幼虫は行動範囲が狭く、餌がなくなっても這い回ることもなく、成虫のガは飛ぶ力がないから、1メートル以上離れたところにいるオスとメスは交尾ができない。また、糸を多く取るために“改良”された厚い繭を作る種類の品種は、自分の作った繭を食い破る力もないそうだ。そして、一度病気にかかると、回復の望みはないという。

今回“開発”されたカイコは、群馬県蚕業試験場の主任研究員をしている小林初美さん(52、男性)の作品。安い外国産絹糸に押されて衰退しつつある地場産業の再生を期して、巨大繭の作成に挑戦したという。品種改良を重ねてきたカイコガを大きな球形のダンボール箱の中で飼育して繭を大きく作らせようとしたが、箱の隅に集まって小さな繭をつくるだけだった。悩んだすえ考えたのは、改良種ではなく在来種で、糸を周囲に吐き散らす厄介者の「又昔」という種を80匹箱に入れること。すると各自が箱の中で足場を求めて這い回り、糸を周囲に吐き散らして、ついに一つの巨大な繭を作ったという。まあ、在来種といえども品種改良が行われた種類だが、吐く糸の量を極端に増やそうとした品種からは、這い回る力も失われたということだろう。

在来種は共同作業で大事業を達成したが、改良種は個々バラバラに小さな繭を作ることしかできなかった--こう考えると、ピラミッドや仁徳天皇稜を建設した昔の奴隷や労働者の影と重なるが、それは擬人法が過ぎるというものか。

ところで、繭から絹糸を採るには、中のサナギがまだ眠っているときにグツグツ煮るらしいが、この巨大繭にはそんなことをしないでほしい。それより、中の80匹がいつ、どうやって繭を食い破って出てくるか知りたいものだ。ある月夜の晩、35センチの白いラグビーボールのような繭から1匹が頭を出し、羽を開きながら飛び出したかと思うと、続々と白いガたちが同じ穴から飛び出していく……あるいは、ラグビーボールの80箇所から一斉に穴が開いて飛び出していく。いずれの場合も、見事な光景ではないだろうか。

谷口 雅宣

|

« 中国経済の矛盾 | トップページ | 法王として飛ぶ? »

コメント

こんばんは。米山です。いつも楽しみに拝見しております。
ある月夜の晩、ラクビーボールのような白い繭から一斉に飛び出してくる成虫蛾たち。
本当にステキな光景が目の前に浮かび上がってくるような一文ですね。うっとりと想像してしまいました。
私は以前通っていた和裁の専門学校で、修学旅行の時に、織物工場で沢山の繭から一斉に絹糸をつむぎだしていく機械や繭を煮るところなどを湯気立ち込めるなか、見学したことがあります。その時の光景も同時に思い出しました。
なんともいえない厳粛な思いがしたのは、命がかかっている織物だからなのでしょうか。
あの時の蚕さん、天国で羽ばたいてくれているといいなあと思いました。ありがとうございます。

投稿: 米山恭子 | 2005年5月10日 00:26

カイコの繭を煮るときには、スゴクいやな臭いがすると聞きましたが、どうでしたか?

投稿: 谷口 | 2005年5月10日 12:38

こんばんは。米山です。レスを拝見して、その織物工場での記憶を辿ってみました。わりと小さな工場でしたので、そのにおいが蚕を煮るときのにおいだったかは定かではないのですが(染料など他のにおいも混ざっていたかもしれないので)泥臭いにおいと、酢ようなにおいが湿ったなかに始終していたように記憶しています。
足元も湿っていて、気をつけながら歩いたような…(これは関係ないですね。)
絹の魅力に五感で触れ、結局その後五年間、呉服の会社の加工部で絹織物に触れて過ごしたきっかけとなったようなことも思い出し、なんとなく幸せな気分です。ありがとうございます。

投稿: 米山恭子 | 2005年5月10日 22:04

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: カイコの巨大な繭:

« 中国経済の矛盾 | トップページ | 法王として飛ぶ? »