桜下の午睡
休日を利用して、妻と連れ立って新宿御苑に花見に行った。関東地方はサクラの満開も過ぎ雨も続いたので、「どうかな?」と思いながらだったが、なかなか見事な咲きっぷりを堪能できた。
久しぶりの晴天だったので、春の日差しを全身に浴びようと、御苑には大勢の人々が繰り出していた。我々もその中に混じり幸せな気分に浸った。ソメイヨシノは満開を過ぎて一部葉桜となっていたが、まだ蕾の固い八重のサクラもあり、まさに満開の白いサクラもあり、ピンクの枝垂桜もあり、その他、聞いたことのない名前のサクラが何種類もあって、「よくぞこれだけ集めた」との感想をもった。それぞれの木の幹に“名札”がついているのが嬉しい。人間はなぜか、名前が分かると何か分かった気がして安心する。しかし、本当は何も分かっていないのだ。
ソメイヨシノの美しさは、空に向かって一斉に咲く淡いピンクの豪華さにあるが、「ああこれは吉野桜」と名前が分かったとしても、その名前は単なる符号で、桜の生命力を何も表現していない。同じように、シダレザクラの美しさは、無数の細い滝のように上から下へ降り落ちるような濃いピンクの流れにある。が、「あれは枝垂桜だ」と分かっても、その名は植物の特徴を一部表していても、美しさについてはあまり語らない。
サクラの見事さは、咲き誇るときより散るときにある、と思う人も多いだろう。我が家の庭には南西の端近くにヤマザクラが1本立っているが、それが決して見えない東向きのベランダにも、白い花弁が風に乗ってひらひらと散る。多少風が吹いていた今日は、だから御苑の芝生には周囲の様々な木から降り落ちる花弁が、黙々と、次々に着地する。木の下で弁当や菓子袋を開いていた人たちは、きっとその花びらを食べそうになったに違いない。
木のもとに汁も鱠(なます)も桜かな (芭蕉)
我々二人も芝生の上に腰を下ろし、午後の光の中でのんびりと読書をすることにした。が、しばらく陽射しを浴びて体がポカポカしてくると、眠気がやさしく体を包む。私は、きりのいい所まで本を読み進めると、両肘を突っ張って支えていた体重を芝生にどっと預けて目を閉じた。恐らく撮影のためだろう、上空を低く旋回するヘリコプターの爆音が、しだいにうるさく感じなくなった。
小一時間ほどして、体の節々に痛みを感じながら我々は芝生から起き上がった。そして、夕食のホッケの干物に添える大根おろしのダイコンを求めて、御苑をあとにした。
咲き満ちる桜仰ぐ人 車椅子
谷口 雅宣
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コメント
新宿御苑の桜の下でお昼寝されたとのこと、素晴らしいお話ですね。
先生がお昼寝されていた時は純子先生はどうされていたのでしょうか?
先生は絵のご趣味といい、俳句といい、私が言うのも何ですがご趣味が本当に高雅でらっしゃいますね。私はまだ到底そこまで行きません。私はテニスとか卓球とかのスポーツですから。
きっとまだ風流に花とか風景を愛でる心になっていなくて勝負事の方にばかりやっきになっているからだと思います。
でも、この頃、ちょっと今目の前の事をじっくり味わうということが分かって来ました。
ところでお恥ずかしい話ですが私も先生を見習ってブログを作成致しました。色々な人に紹介したのですが中々コメントってもらえませんね。
厚かましいお願いですが何か変な所があったらご指導頂けたら幸甚です。
投稿: 堀 浩二 | 2005年4月15日 09:35
堀さん、
テニスとか卓球とか、若々しくていいじゃないですか。私は中学生のとき卓球部にいましたが、ちっとも上達しなかったのでやめてしまいました。シェークですか、ペンですか?
貴方のブログのURLを教えていただけますか?
投稿: 谷口 | 2005年4月15日 16:38
谷口雅宣先生
お返事有り難うございます。卓球のラケットはペンホルダーです。毎日会社の昼休みにやっております。
ところで私のブログのURLは下記の通りですが、私の名前をクリックして頂ければダイレクトでご覧になれます。
http://joyfulness.exblog.jp/
投稿: 堀 浩二 | 2005年4月15日 17:31
堀さん、
あなたのブログ、なかなか力作揃いじゃありませんか!
それから、あなたのお顔を初めて拝見。もっと年配の方かと思っていました。(失礼!)
投稿: 谷口 | 2005年4月15日 22:20
谷口雅宣先生
私のブログわざわざ目を通して下さり、その上もったいないお褒めの言葉を賜りまして幸甚です。
基本的に一日一つ書いて行きたいと思います。
投稿: 堀 浩二 | 2005年4月16日 10:26