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2005年4月 9日

原人の愛

 もしあなたが土を掘っている時、化石化した人骨を発見し、その頭蓋骨の歯がすべてなくなっていたとしたら、どう考えるだろう? 4月8日付の『ヘラルド朝日』によると、いま考古学者、人類学者の間で起こっている論争は、まさにその点に集中している。

 その人骨の化石とは、2千年とか3千年程度昔のものではない。177万年も前の直立原人(Homo erectus)のものだから興味がそそられる。旧ソ連のグルジア国コーカサス地方で発見され、科学者の鑑定の結果、年齢が40歳ぐらいの男性のものという。口の骨の再生状態から判断すると、歯が抜け落ちてから少なくとも2年間は生きていたと考えられ、歯のない期間に一体何を食べていたのか、と科学者たちは想像力を膨らませている。

 この時代の原人にとって40歳は“老人”であるという。だから、この“老人”が歯を失ってから2年間、周囲の原人たち(恐らく家族)が、歯がなくても食べられるような野菜や果実などの食物を与えたか、獣の肉を石で磨り潰して与えたりしたから“老人”は生き延びられた--こう考える科学者たちは、この頭蓋骨の化石こそ、ネアンデルタール人以前の原人も、愛情をもって家族間で助け合った証拠だと結論する。これに対し、「歯がないこと」と「愛情」とを結びつけるのは短絡だと考える科学者たちもいて、論争は続いている。

 私はもっと素朴に考える。愛情(compassion)というものを人間以外の動物が共有することは、そんなに問題なのだろうか、と。鳥や犬やネコに、子を育て、仲間を守る行動が観察されるならば、それを「愛情」と呼ぶことにそんなに深刻な問題があるのだろうか。もし問題がないのならば、猿人や原人に同様なことが起こっても何の不思議もないはずだ。しかし、科学者の間では、こんな素朴論は相手にされないのだろう。ここでの論争の焦点は、この頭蓋骨の化石が「人類の祖先の中に、真に人間的と言える行動が現われた最初の証拠」であるか否か、ということらしい。

 でもこれって、「昔は今より劣っていた」という前提がなければ言えないことではないか? また、人間至上主義的な考えが背後にないだろうか? だから、進化の結果、猿人は原人になり、原人は人間性を獲得し、人類へと移行した、と考えるのだろう。しかし、「人間性」というものがそんなに優れているなら、どうして地球環境問題など起こってくるのか? どうして生物種の絶滅が危機的な速度で進行しているのか? どうも分からないことが多すぎる。

谷口 雅宣 

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