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2005年4月23日

技術の落し穴 (1)

 「便利なものは良い」という常識には大きな“穴”があるようだ。特に、高度技術がそれを開発した国以外のところへ輸出されると、いろいろな問題を起しやすい。4月23日の『朝日新聞』によると、家族以外の女性の素顔を写真に撮ることがタブー視されているアラブの国々では、カメラ付き携帯電話が問題になっているという。日本の技術がイスラム社会に波紋を起しているわけだ。

 サウジアラビアでは、従来は「女性のプライバシーを守るため」などの理由で、このカメラつきケータイの販売を禁止していたそうだが、昨年12月にこれを解禁した。というのは、すでにヤミで大量に出回っており、またケータイの趨勢がカメラつきに移行していたからだ。ところが無断撮影が頻繁に行われたり、ポルノ写真が流通され始めたばかりか、男が17歳の少女をレイプする様子をケータイで写した写真がメールで流されたため、今年1月、男2人が鞭打ち1200回の刑を受けたという。同じ記事では、似たような問題を抱えるクウェートでは、ケータイで無断に他人の写真を撮った場合、懲役2年または罰金2千ディナール(約74万円)を科し、その写真をメールで流通させた場合は懲役5年とする法案が可決されたという。

 「どこでも写真を気軽に撮れて迅速に送る」という撮る側の便利さが、撮られる側にとっては、逆に大いなる迷惑を生じさせているわけだ。この問題は、当の開発国、日本でも本質的に変わらない。温泉やトイレで有名人や女性を組織的に隠し撮りする事件が相次いでいるからだ。24日の『日本経済新聞』によると、参院自民党は、カメラつきケータイによる隠し撮りを罰する「盗撮防止法」をつくる目的で、参院政策審議会に作業チームを設置したそうだ。開発者が、開発当時にこの問題を真剣に考えたかどうかは、きわめて疑わしい。もちろん、シャッター音を人工的に付加するなどの処置は講じているが、ケータイにつけたカメラの解像度がどんどん上がっているのは問題だと思う。解像度を上げれば上げるほど、悪用者にとっての悪用の魅力も上がってくるからだ。

 ケータイには、これと似たジレンマがある。それは、自動車運転中のケータイ使用である。科学的な検討では、この行為が危険であることが証明され、罰則によってこれを禁じる法律もできたが、運転中のケータイ使用はまだよく見かけられる。だから、盗撮防止法の制定も、根本的解決にはならないと私は思う。

谷口 雅宣

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